「忍者検定」の題字、私が書きました。運と愛嬌で世を渡る字書き職人

字書き職人さんに取材を依頼したところ、指定されたのは居酒屋。「どういうことかな…?」と思いながら取材に伺うと、字書き職人の渡邊翔太さんは、居酒屋経営者の肩書きも持つ、二足の草鞋を履いた方でした!

「伝えたいことは特にない!」「俺より字がうまい奴なんて、いっぱいいるよ!」と、忖度ゼロの本音トークが炸裂。とはいえ字を書く時の顔は真剣そのもので、しっかりその醍醐味も語ってくださいました。字書き職人の日常、ぜひお楽しみください。

運と愛嬌だけで生きてきた

ーー 字書き屋さんと思って伺ったら、居酒屋も経営していたとは!本業はどうなるんですか?

 若い時は、「俺の本業は字書きだ!」とか言っていた時期もあったけど、今はもうそんな青臭くないかな(笑)。主な収入源はこの居酒屋経営で、字書きは依頼を受けたらやる。お店は今年で5年目です。

ーー どんな日々を過ごしているんですか?

 起きるのが大体、夜の7時。お水飲んだりタバコ吸ったりして、8時か9時にお店を開ける。閉店は早い日で午前2時で、そのまま朝までやる時も結構多いな。そして帰って寝る。起きるとお水飲んでタバコ吸って…(以下略)。

 常連さんはみんな、俺の生活リズムを知っているから、9時くらいから集まってくる感じだね。

会社勤めの人に嫌われちゃう…と心配している。

ーー 今日は生活リズムを崩してしまってすみません…(取材は午後4時開始)。居酒屋はどうして始めたんですか?

 高校を卒業して、近所の串焼き屋さんで働き始めたのがきっかけ。もちろん理由も特になく、近くて給料が良かったから(笑)。そこで12年間、厨房と接客をしていたんだけど、不動産関係の友達に、「お店を一緒にやらないか?」って誘われたんだよね。

  特に考えずに、「いいよ〜」って言った。そして東京都に事業計画書を出してみたら、補助金も下りることになって。流れに身を任せていたら、今に至る。考えてみると、本当に運と愛嬌だけで生きているなぁ。

Open 起きたら Close 飽きたら。以上。

最も苦戦した字は「上田屋」

ーー 字書きは、どうして始めたんですか?

 串焼き屋で働いていた時に、メニューを書いていた人が辞めちゃったんだよね。で、「器用そうだからやってみろよ」と言われて、書いてみた。そしたら意外と、評判が良かった。

当時のメニュー。記念すべき最初の作品!

ーー 素敵!何か特別な筆で書くんですか?

 ん?普通に筆ペンだよ?みんな知ってる、ぺんてるのアレね。最近は、自分の店のメニューはもはや、マジックペンで書いてる。お店始めた頃は、ちゃんと筆を使ってたんだけどねぇ。

ーー お仕事として字を書く時は、どんな依頼があるんですか?

 知り合い経由で、名刺やお店の看板の字を頼まれることが多いかな。飲食店仲間が多いから。変わった仕事だと、忍者検定ポスターの題字を書いたことはあったな(笑)。あと、くだらないもの工房さんに依頼してもらった、死亡フラグね!

くだらないもの工房さんの「死亡フラグ」、実は渡邊さんが字を書いています!詳しくは過去記事へ:https://uniques-magazine.com/2019/06/09/interview_11/

ーー 印象に残っているお仕事はありますか?

 カレンダーは、大変だった…。祝日は赤で囲って、今年はうるう年で…とか。一発勝負で間違えられず、和紙に書いていたから、修正ペンも使えないし(笑)。

  木の看板に、お店の名前を一発で書かなきゃいけない時も、緊張したなぁ。

ーー こっちまで胃がキリキリする…(笑)。字を書く魅力は?

 形としてカッコいい字がかけると、「キター!」ってなるね。一発で書けるのが一番良いんだけど、上手くいかなくてドツボにはまることもある。300枚以上書き直したこともあったな。

 一番苦戦したのは、「上田屋」っていう看板。字って、画数が少なければ少ないほど、難しいのよ!バランスが取りにくいからね。

 画数が多いと、書いている途中で「やばい!」と思っても、あとで巻き直しが効くことが多いんだけど。「上田」なんてもうねぇ、難易度最高ですよ(笑)。

伝えたい思いは、特にない

ーー デザインフェスタ(クリエイターが作品を出展する定期イベント)にも出展していると聞きました。ブースではどんなことをしているんですか?

 シンプルだけど、来てくれた人に字を書いています。書いてもらいたい内容を準備してきてくれる人もいるし、「メッセージを送りたいんだけど…」と相談されて、何を書くのか一緒に考えることもある。「可愛く書くのか」「ゴリゴリっと書くのか」みたいな好みは聞いて、それに応える感じ。

何やら書いてくださるようです。わくわく。

ーー 書く内容も自分で決めて、作品として字を書くことはないのですか?

 ない!全部依頼ベース。だって、声高に伝えたいことなんて、正直なくない(笑)?

「これが俺の表現だ!」とか言っても、どうせ他の人もやってるし。俺にとっては、字は完全に手段。依頼してくれた人に最適な形で、字を提供するのが仕事だね。

ーー 正直!でも字を書くこと自体は、好きなんですよね…?

 今となっては好きかな。でも小学校の授業の習字は、大っ嫌いだった。うまく書けないし、手は汚れるし…。

UNIQUESのロゴを書いていただきました!嬉しい!カッコいい!

 今書いている字は、絵みたいなもんだから。自分が「良い形だ」と思う字を目指しているだけだから、まあ面白い。伝統的な書道とは真逆だよね。書道という意味で俺より字がうまい人なんて、山ほどいると思うよ。

ーー これからやってみたいことはありますか?

 全然関係ないけど、バンジージャンプをやってみたい。能動的な死の疑似体験をしてみたくてね…。

 陶芸もやってみたいなぁ。お店のお皿も自給自足!とかよくない?結構器用な方だから、一定ラインまでは上手く作れると思う。でも、そこから先の高みを目指そうとすると、よく分かんなくなっちゃうんだよね…。まぁ、それはそれで良いかな、と思ってるんだけど。

略歴:字書き職人、居酒屋経営者。串焼き屋で12年間働いた後、石神井町に居酒屋「Hill and on」を開き、今年で5年目。居酒屋のメニューを書いたことをきっかけに、字書きの仕事も並行して開始。名刺や看板の字を手がけるほか、デザインフェスタにも出展している。「飲んべえです」とのこと。