孤高のAI学者は「もう地球は人間に任せられない」と語る

「人間の体は、地球全体の責任を負えるほど、良い“出来”ではないんです」

 AIを研究する理由を聞くと、取材陣の想像をはるかに凌駕した、そんな答えが返ってきた。取材したのは、自宅をオフィスにして一人、AIの研究に励む我妻(あづま)幸長さん。UNIQUES史上もっとも壮大なお話を伺えたインタビューを、お届けします。

研究者は「孤独」であるべき

ーー 名刺を拝見すると、「代表取締役 理学博士」という見慣れない肩書きが…。我妻さんは一体何者ですか?

 一言で言えば、研究者です。大学や企業には所属せず、自宅を研究室として一人でAIの研究をしています。とはいえフリーランスの研究者では、便宜的に仕事がしづらいことも多く、2年前に「SAI-Lab」という会社を立ち上げました。

 ーー AIというと、具体的にどんな研究をしているんですか?

 AIの中でも、汎用型の研究をしています。汎用AIを実現するため、脳の働きを参考にするアプローチを取っていて…。

ーー ???ちょっと「AIとは何ぞや」というところから、お話いただけませんか…?

 もちろんです。AI(=人工知能)とは、話す・学ぶ・判断するなどの人間の知的な働きを、コンピューターを使って人工的に再現したものです。よく耳にする例だと「囲碁AIがトップ棋士を打ち負かした」といった話題がありますね。

 でも実はAIって、大きく2種類に分かれているんです。それが「特化型」と「汎用型」です。「特化型」はその名の通り、ある特定の分野や業務に特化したAI。一方で、「汎用型」は、プログラミングされた特定の業務以外にも、自身の能力を応用して対応できるAI。わかりやすく言えば、「ドラえもん」を実現できる可能性を持つのが、汎用型のAIなんです。

ーー なるほど!そして我妻さんが注力するのは汎用型AIなのですね。改めて具体的な研究を教えてください。

 人間が話したり判断したりできるのは、全て脳の働きによるものですよね。なので、AIに人間の知的働きをさせるためには、脳の動きを「真似る」アプローチが最適だと考えて、脳を研究しています。

 この画像は、大脳皮質(人間の知覚や思考、推理、記憶などが行われる脳内の部位)の活動をシミュレーションした図です。こういった脳の働きを参考にしてプログラムを書き、コンピューター上でも脳と同じように動かせるか、日々試行錯誤を繰り返しています。

大脳皮質の活動をシミュレーションした図。本当はウネウネと動いてます。

ーー 研究者って大学や企業に所属しているイメージなのですが、我妻さんは一人でやっているんですね?

 はい、自宅をオフィス代わりにして研究しています。他には、AIを導入したいという企業に向けて研修をしたり、Udemyというオンライン学習動画サイト向けに、AIを解説する動画を配信したりしています。AIを学び始める人のための書籍も、執筆していますね。

 一人で研究している理由は、しがらみが少ないから。やはり大学で研究をしようとすると、アカデミックな世界のルールに従う必要があるので。汎用型AIの場合は、コンピューター1台あればできる研究だから潤沢な研究資金が不要、という側面もあります。

 また研究はそもそも、孤独な作業であるべきだと思っています。アインシュタインだって、一人で考え抜いて相対性理論を確立したんです。

 人が集まると、少なからず「空気を読む」雰囲気が生まれてしまう。コミュニケーションコストがかかるし、会議などで物理的に時間が取られてしまいますよね。結果的に一人で考え抜く時間が、削られてしまうんです。

 結局のところ、人の顔色を伺っていては、新しいことはできないと思います。なので私は、この孤独な研究スタイルで行きたいと思っていますね。

我妻さんの著作。

研究の軸は「境界」にあり

ーー 専門はずっと汎用AIだったんですか?

 いえ、今までは割といろんなことをやってきました。大学院の博士課程を出ているのですが、当時の専門は物理学。半導体の結晶について学んでいました。

ーー 半導体の…?結晶…?

 半導体は、CPUやメモリの大元の材料なんですが、いかに品質の良い半導体の結晶を作るかという研究をしていました。半導体の結晶というと難しく聞こえますが、きれいな雪の結晶なら思い浮かびますよね。

 気体から固体、液体から固体になるその境界で結晶ができるんですが、そのタイミングってとても面白いんです。いろんな要素が混じり合っているんですが、その中にも物理的なルールがある。その「境界」で起こる現象が非常に好きなんです。

 大学ではそんな研究をして、1年のポスドクを経て半導体関連の大企業へ。研究開発職として入りましたが研究はほとんどできず、周りと連携しながら部品の品質管理などを行う仕事。でも適性がなかったようで嫌になり、5年ほどで辞めました。

 その後はしばらくフリーランスをしていたのですが、その頃はちょうどiPhoneが流行り始めたタイミングで。iPhoneを使って何かしたいと考えるようになりました。

ーー なぜiPhoneに興味を持ったんですか?

 先ほどお話した通り、私は大の「境界好き」なんです。iPhoneは人間にとって最も身近なコンピューター。機械と人間のインターフェース、つまり「境界」なんです。それで興味を持ったんですね。

 なので当時は、iPhoneのアプリを自宅開発したり、アプリ開発スクールの講師をやったりしていました。ブラジリアン柔術というスポーツも好きで、その得点をつけるために作ったアプリは、世界で数万ダウンロードされています(我妻さんは、ブラジリアン柔術の東北、九州地区・無差別級で、チャンピオンになった実績の持ち主です…)。

 その後もベンチャー企業に勤めていたこともありましたが、今は汎用AIの研究にフォーカスして完全に独立、今に至るという形ですね。

AIが宇宙を開発する未来?

ーー 汎用AIの研究に注力するようになったのは、なぜなのですか?

 一言で言うと、「今の地球を人間に任せるのは荷が重い」と思うからです。

ーー  むむ…?もう少し詳しくお願いします!

 そうですよね(笑)。私は今の人間って、「地球環境全体に責任を負えるような“出来”ではない」と思っているんです。

 と言うのも人間って、何百万年もの間、原始人だったわけですよね。文明が芽生えてからは1万年、産業革命が起こってからは、たった200年しか経っていない。そう考えると、DNAは原始人だった頃の環境に、適応しているはずなんです。

 原始人と同じDNAしか持っていない身体にも関わらず、今となっては地球環境に大きな影響を与える存在になっている。いわば猿に地球の運命を任せているようなもの。担っているタスクが大きすぎるんです。そこで取り返しがつかなくなる前に、別の存在によるサポートが必要だと。それが汎用AIなんじゃないか、と考えています。

ーー とても面白い!でも、汎用AIってどうしても、映画の「ターミネーター」みたいな世界を想像してしまうんですが…。

 私もAIの感情についての議論には、まだ明確な答えはまだ出ていないんです。人間は感情を、進化の過程で身につけてきました。例えば「恐怖」という感情は、敵から身を守るために生まれた感情。生き残るために、感情が必要だったんですね。

 でもAIはその進化の過程を経ていない。だからそういった感情を持ち合わせてはいません。だからAIを開発する時に、「どういう感情を持ったら良いか」「何を目的に生きたら良いか」まで、決めてやらないといけない。

 つまり人間が、AIの性格を設定しないといけないということです。世界平和を望むAIが良いのか、怖がりなAIが良いのか、私も分かっていません。まさに子育てのようなものなのかもしれませんね。

ーー AIがなぜその判断を下したのか、その過程を人間が理解できないという問題もありますよね。

 それはもう、ある程度は仕方のないことだと思っています。人間が一生の内に理解できることなんて、本当にたかが知れていますから。全部を理解した上でAIを作るなんて、無理だと思いますよ。

 人間が大まかにプログラムして、AIが自発的に成長していく、という路線が現実的だと思いますね。

ーー 我妻さんの研究を通して、どんな未来を想像しているか教えてください。

 人間をサポートする汎用型AIは、本当に色々なものがありえますよ。イーロン・マスクは宇宙開拓を真剣に考えていますが、私は宇宙こそ、AIに開発してもらう手もあるのではと思っています。

 人間は生物であるが故、必然的に脆い存在。一方でAIは、情報とアルゴリズムから成る存在です。今の段階で、脆い人間が宇宙に行く必要性は低いと思うのです。

 汎用型AIを使ったもっと身近な例で言えば、インターフェースを会話にすれば、自然に会話できるAIが可能になりますね。汎用型AIは、まだ使われ方が定まっていないからこそ、可能性は無限にあります。これからも研究を続けて、AIと人間が共生関係を築けるような世の中にできたらと思っています。

略歴:SAI Lab株式会社 代表取締役理学博士、汎用型AI研究者。AIに関する企業研修やオンライン動画配信を行いながら、汎用型AIの研究に打ち込む。ブラジリアン柔術では、東北・九州地区の無差別級でチャンピオンの実績あり。最近の趣味は、ドラクエウォーク。