君は本当のチャイを知らない。19歳がインドで出会ったもの

皆さんの中で、チャイってどんなイメージですか?何かエキゾチックなお茶、スパイスが香る飲み物、インドカレー屋で飲めるアレ…?

今回のUNIQUESでは、チャイの伝道師を目指して奮闘する若き青年、名和やすたかくんにインタビュー。「チャイで生計立てるってどういうこと?」「そもそも何でチャイ?」気になったことを全部聞いてきました。

そもそもチャイって何だ?

―― 名和くんのツイッターの自己紹介文には、「茶リスタ」という肩書きが…。一体何者ですか?

一言で言うと「チャイを淹れる人」をやっています。コーヒーを淹れる人がバリスタなら、紅茶やチャイを淹れる人は「茶リスタ」だろう、と。僕が発明した言葉ではないのですが、便乗してそう名乗っています。

今の職場は、吉祥寺にあるチャイの専門店「chai break」。まだ働き出して1年ちょっとなので、見習い段階です。その他にもいろんな場所で、「出張チャイ」もやっています。

6curry という会員制のカレー屋さんでチャイを出したり、スパイスや茶葉を変えて、チャイを飲み比べるワークショップを開いたり。フリーマーケットの一角や、普通のオフィスで出張チャイをやらせてもらうこともありますよ(笑)

―― チャイってそもそも何なんですか?

定義の仕方も複数あるんですが、広義ではいわゆる「お茶」を指します。トルコでチャイを注文するとストレートティーが出てきて、ロシアだとジャムティーが出てくる。同じ「チャイ」でも、国によって出てくるものが違うんです。

僕が働いているchai breakでは、チャイを「煮出したミルクティー」と定義しています。チャイというとスパイスの効いたお茶を想像しがちですが、スパイスが入っていない、美味しいチャイもたくさんあるんですよ。

高校卒業でインドへ

―― 当然の流れですが、名和くんがチャイに目覚めたきっかけを、教えてください…。

 高校卒業後にインドで働いていた経験が、一番のきっかけですね。そこでの縁が、今の活動の全部につながっている気がします。

―― 高校卒業というと、19歳でインドに?どうして?

僕は鹿児島県の奄美大島出身で、島の高校に通っていました。でも高校の進路選択のタイミングで、大学で何をしたいのかさっぱり分からず、悩んでしまって。

そんな状態で大学に大金を払うのはもったいないから、そのお金で別のことをしよう、と思ったんです。

まずはオーストラリアにワーキングホリデーに行く…?とか考えました。でも、ありきたりでつまらないな、と(笑)。そこでパッと思いついたのが、インド。

結構昔まで遡るんですが、父がずっとインド好きで。父の仕事が旅行関係であることもあり、インドの方が家にホームステイしていたり、インド人に抱っこされている僕の写真があったりと、昔からインドに親しんでいたんです。

父に相談してみたら、もちろんゴリ押しで(笑)、卒業後はインドで働いてみることにしたんです。

―― お父さん、素敵!でも実際の働き口はどう探したんですか?ビザは?

 当時は半年なら観光ビザで滞在できたんです。だからとりあえず半年、と期間を決めました。

 でも観光ビザだから、お金をもらって労働はできないんですよね。そこで思いついたのが、ホテルに格安で滞在させてもらう代わりに、仕事の手伝いを無償でさせてもらう、というもの。

現地のホテルのマネージャーと、頑張って交渉しました。日本人のツアー客を受け入れているホテルだったこともあり、日本人がいるのは良いことだろうと了承してもらえたんです。

―― 何だか未来的な働き方ですね!インドではどんな日々を?

 まず朝起きて、朝ごはんのビュッフェの手伝いをします。料理を運んだり、お客さんに料理の説明をしたり。そのあとは部屋の掃除やベッドメイキング。

昼間は、英語の学校に毎日通っていました。帰宅してからは同様に、晩ごはんの準備。土日はツアーの添乗員として、一緒にタージマハルなどの観光地を回っていました。楽しかったなあ…。

―― 本当に楽しそう。あれ、でもチャイとの出会いは…?

 いや、そんなに衝撃の出会いを果たしたわけじゃないです(笑)。チャイってインドでは、完全に日常的な飲み物なので、日本の麦茶みたいな感覚で毎日飲んでいましたよ。

当時はチャイにすごいハマっていた、とかではなくて、「美味しいお茶だな」「季節によって入れるスパイスを変えるんだな」とか、それくらいにしか感じていませんでした。

june. / PIXTA シナモンからクローブ、カルダモン、ブラックペッパーなど、スパイスの組み合わせで全然味が変わるそう。

 ただ、chai breakとの出会いは、実はインドなんです。chai breakのオーナーは、お店で使う茶葉も自分で確かめてから買うんですが、ちょうど僕の滞在中にインドに買い付けに来ていて。その時に挨拶をしたのが、オーナーとの初めての出会いです。

チャイは“無限大”

―― インドから帰ってからは、どう過ごしていたんですか?

 最初は、ホテル業界で働きたいなと思い、派遣社員としてホテルに就職しました。でもインドで働いていたホテルとは違って、規模の大きいホテルで。お客さんとコミュニケーションを取れる機会も少なく、「なんか違う」と思って3ヶ月で辞めてしまいました。

 これからどうしようかと思っていたところ、インドで出会ったchai breakに挨拶しに行こうと思い立ったんです。それがきっかけで、「うちで働かないか」と誘っていただけて。2018年の9月です。

―― 本格的にチャイの面白さに気づいた転機はあったんですか?

ありましたね。一つは、日本のチェーンのコーヒー店で売られているチャイが、本場の味とは全然違うと気づいたこと。これでみんなが「チャイは美味しくない」と思ってしまうのは、すごく嫌だなと感じたんです。

 二つ目は、やはりchai breakでの経験。チャイの広がりって、本当に“無限大”なんです。そもそもスパイスが入っていなくてもチャイだし、スパイスを一種類変えただけで味が変わる。さらに茶葉やスパイスは同じでも、グラニュー糖を使うか黒糖を使うかで、微妙に味が変わるんです。

取材の時に特別に、チャイを作ってもらいました!この攪拌という工程は、砂糖をなじませたり、空気を含ませて舌触りをよくしたりするためだそう。

さらにchai breakでは、フレーバーチャイも提供していて。ちょうど今の季節だと「焼き林檎のチャイ」とか「洋ナシとバニラのチャイ」なんていうメニューもあるんです。chai breakで、チャイの固定概念がぶっ壊されてしまったと同時に、なんて面白いんだろう、と。

  chai breakでチャイを初めて淹れさせてもらえたのは、今年の5月でした。8ヶ月間はずっと見習いの身。マスターは素材から淹れ方から、全てにおいてプロフェッショナルで、妥協を絶対に許さない人。“本気でやる”とはこういうことなんだな、と毎日そばで感じています。

―― chai break以外でも、自分でワークショップを開いたり出張チャイをしたりしていますよね。それはどうして始めたんですか?

 インドから帰国した後「田舎フリーランス養成講座」というプログラムに通っていたんです。企業に就職しなくても、場所を選ばず働けるスキルを身につけよう、というプログラムで。

その時に「チャイが淹れられるなら、チャイのイベントでもやってみたら?」とアドバイスをもらえて。

 お菓子作りが得意な子もいたので、一緒にお茶会を企画したんです。そしたら、みんな楽しんでくれて。「チャイ、行けるやん!」と、手応えを感じましたね。その経験に背中を押されて、自ずからイベントを企画できるようになりました。

あとは会場の方が協力してくれたり、いろんな人を紹介してもらえたり。本当に今あるご縁はありがたいし、今までやってきたことに無駄なことはなかったんだなあと思います。

完成したカルダモンのチャイ。美味しすぎて、一同感動してしまいました。これはチャイの概念変わる!

―― これからやりたいことを教えてください!

チャイに関しては、本当のチャイの味をちゃんと広めたい。チェーン店のチャイの味が、チャイの味として日本に定着してしまうのは嫌なんです。おこがましいかもしれませんが、チャイってこんなに美味しいよ、と広め続けたいですね。

  自分がこれからやりたいことは、まだ正直わかりません。でも、平日は別の職業で働いて、土日にチャイのイベントを開く、みたいな生活ができたらすごく良いなって。それを実現するためにも、今はしっかりチャイに集中して腕を磨いていきたいと思っています。

(取材・編集:かない、動画制作:アヤカ、写真:ユキ)

略歴:1998年生まれの21歳。鹿児島県奄美大島出身。チャイを淹れる「茶リスタ」。高校卒業後にインドに旅立ち、約半年ホテルとツアーの手伝いをして生計を立てる。現在は、東京都吉祥寺のチャイ・紅茶の専門カフェ「chai break」で働くほか、「なわチャイ」という名前で、様々なイベントや会場でチャイを振舞っている。