布の買い付けは、アフリカで。沖縄在住・洋裁師の物語

 赤と青の思い切った色の組み合わせや、手のひらより大きな花のプリント。アフリカ布は、アフリカ諸国でデザイン・生産されている布。眺めているだけで目がさめるような、鮮やかなデザインが特徴だ。

 そんなアフリカ布を現地で買い付け、日本人が着こなせるように縫製しているのが、栗栖咲子さん。沖縄・那覇市で「日常で着られるアフリカン」を掲げたアパレルショップを営む。彼女をアフリカまで運んでしまう情熱は何なのか。 話を聞いた。

買い付けはブルキナファソで

ーー まずはMasht starについて、教えてください。

 10年前に私が始めたお店で、アフリカの布を使ったオリジナルの洋服を作って、販売しています。洋服は全て一点もの。メンズもレディースも両方扱っています。カバンやアクセサリーなどの、小物も販売していますよ。

ーー アフリカ布は、どうやって入手しているんですか?

  世界各国に買い付けに行っています。最近行ったのは、西アフリカのブルキナファソ。他にもセネガルやタンザニア、エチオピアにも、買い付けに行きました。お店を始めた頃はニューヨークやロサンゼルス、ヨーロッパが中心でしたね。頻度は1年に1度くらいで、一度行くと200kg分くらい買ってきます。

ーー 200kg!布はどんな風に選ぶんですか?

 基本的には自分が可愛い!と思うものを、直感的に選んでいます。また鳥やキリンといった動物柄は、Masht starで人気があるので、積極的に探していますね。

 何メートルもある布を、店内で全部広げて吟味して買うので、お店の人にはいつも迷惑がられています…。「たくさん買うから!」と言って、説得しているんですけど(笑)。


ーー 全く知らない国で、どうやってアフリカ布を扱うお店を発見するんですか?

 一番最初は、ニューヨークに買い付けに行ったんです。アフリカ布の洋服を扱っていた大阪のお店で、「ニューヨークなら売っているよ」と教えてもらって。それ以外の情報は全くない状態で行ったので、とりあえず黒人の方が多く住んでいる、ハーレム街を訪れました。

 そしてその辺りを歩いているおばさんに、「布を買いたいんだけど…」と話しかけてみる。やってみれば何とかなるもので、無事にお店にたどり着くことができました。

 アフリカ諸国に行く時は、ガイド、ドライバーは必ず手配してから行きます。現地の日本大使館に連絡をして紹介してもらったり、ネットで自分で調べたり。さらに、しつこいくらい何回も「こういう布を買いたい」「こういう店に行きたい」と、日本にいる時からメール。そして現地で、布屋さんを巡ってもらいます。

ブルキナファソの村の様子。栗栖さん作成のポストカードより。

「危ないんじゃない?」とはよく言われます。確かに現地ではポケットに手を入れられたり、カバンを勝手に開けられたり、ということはありました。でも、身の危険を感じるほどの危ない目に遭ったことはないですよ。

 1度、ビザが不要な国のイミグレーションで、「ビザが必要だからお金を払え」と言われて、「そんなわけないやろ!」とケンカしたことはありますが(笑)。

ーー 実際に縫う工程も、栗栖さんが一人でやっているんですか?

 最近やっと、内職さんにお仕事をお願いし始めましたが、基本はずっと一人。お店の運営も私一人です。人にお願いするのが、あまり得意ではなくて。布の買い付けからデザイン、縫製、お客さんとの会話まで、全部の工程が好きなんです。だから自分でやってしまうんですよね

ーー 洋服を1枚作るまでに、どんな工程があるのですか?

 まずは布やボタン、リボンなどの買い付けですよね。私は布ありきで考えることが多いので、布を起点にしてデザインを始めます。タブレット上でデザインを描いて、バシッと決まったら今度は、型紙に落とし込む作業。

 そして本番の服を作る前に、試作品を製作します。そこでデザインやサイズ感の微調整をします。その後は、布を切ったり、縫ったり、ボタンを付けたり…という工程を経て、完成です。

25歳までにお店を開く

ーー 縫製はどうやって学んだのですか?

 中学生の時から、25歳になったら洋服のお店を持ちたいという思いを、ずっと持っていたんです。なので高校は家政科に進み、服飾の勉強をしていました。その勉強が楽しくて、将来やりたいことも変わらなかったので、ファッションの専門学校に。

 そんな夢を持っていたのに、専門学校時代は全然勉強しなくて(笑)。卒業してからは、大阪と京都のアパレルで、販売員をしていました。でも25歳でお店を持つ夢は変わらなかったので、25歳ギリギリで沖縄に引っ越して、Masht starを開きました。

 なので学校以外で、どこかの企業で縫製の勉強をしたことはありません。お店を開いた頃は、専門学校の時の教科書を引っ張り出して勉強して、「そうことやったんやー!」って感動していましたね(笑)。

ーー なぜ沖縄にしたんですか?

 お店を出すと、その場所からなかなか離れづらくなるので、どうせなら住んでみたい場所に出店したいなって。沖縄は何回も旅行で訪れていて、憧れの地だったので決めました。でも若かったので、単純に「楽しそう!」という気持ちが、一番強かったと思います(笑)。

ーー お店はどうやって開いたんですか?

 本当に何も分からないまま始めて、徐々に学んできた、という以外ないですね。とにかくお金があれば何とかなるだろうと、コツコツ貯金して、何の収入がなくても1年生活できる金額を貯めました。それで何とか、お店を開くこと自体はできました。

 販売ラインナップも、試行錯誤の繰り返し。もともとメンズ服の作り方も分からなくて。でも沖縄って、アロハシャツでも働けるカルチャーがあるじゃないですか。だから「メンズないんですか?」って聞かれることも多かった。

 そこで需要があるということに気づき、メンズ服の作り方も勉強して、ラインナップに加えました。お店をやりながら失敗したり、お客さんから気づきをもらって、その都度模索して来た感じですね。

 でも「コンセプトだけは、きちんと決めなくては」と、最初から思っていました。自分の年齢や時代、ファッションの流行が変わっても、変わらないお店にしたかったんです。そこでコンセプトは「日常で着られるアフリカン」と決めて、今も変わっていません。

ずっと眺めていられるアフリカ布

ーー 「日常で着られるアフリカン」のコンセプトは、どんなところから生まれたんでしょう?

 私がアフリカ布で服を作りたいと思うようになったきっかけと、繋がっています。

 大阪で専門学校に通っていた頃、たまたま入った洋服屋さんに、アフリカ布が売っていて。何に使うか聞いてみたところ、頭に巻いてターバンにしたら?と言われて。ちょうどその時ドレッドヘアだったので、これは良いなと集め始めたんです(笑)。

 日本でもチラホラと、アフリカ布を使った服を扱っているお店があるのですが、雑に作られていることが多くて。ただまっすぐ切って、まっすぐ縫いましたって感じ。そこで、「こんなにかっこいい布を、何てもったいない使い方してるの?!」と。

 日本人がもっと気軽に着られる作り方があるはず。この布を一番良い形で、世に出したい。その思いが、お店を出した時の原点で、「日常で着られるアフリカン」のコンセプトにも繋がっています。

Masht starは、ジャマイカで使われるパトワ語で、「神のご加護を」という意味だそう。

 アフリカ布に出会ってかれこれ20年弱ですが、ずっと眺めていても本当に飽きなくて。何度買い付けに行っても、「この布いいな〜!」って心から思ってしまうんです。

 この布をどういう風にデザインしたら一番かっこいいかな、と考える時間が幸せだし、思い通りの形になった時はもう、「バンザーイ!」という気持ちだけです(笑)。お客さんにそれが伝わった時も、本当に嬉しいですね。

ーー アフリカ布の魅力は、どんなところでしょうか?

 色の組み合わせも、柄の構成も、自分の感覚では考えつかないものばかりで。しかも、デザインもすごく複雑なんですよ。

 例えばこの服、一番ベースは黄土色と白のタイダイですが、その上に黒のラインが斜めに入り、メインのフルーツの柄が入っている。ドットのサイズも微妙に違うんです。こういう細かなデザインが、本当に好きなんです。

 動物柄やフルーツ柄って、日本だと子供服のデザインに使われることが多いじゃないですか。でもアフリカ布だと、あらゆるモチーフが大人も着られるデザインに仕上がっている。それもすごいなと思います。

ーー これからやってみたいことはありますか?

 アフリカの藍染の布を使って、洋服を作って行きたいと思います。今年ブルキナファソに行った理由も、実はこれで。以前アフリカに買い付けに行った時に、「African textile today」という、アフリカ布に関する本を買ってきたんです。そこに、現地で藍染をしている写真がを見つけ、「かっこいいな」と。

 ネットやInstagramで調べてみると、どうもブルキナファソという国の人たちが作っている布らしい。そこで、去年ブルキナファソに行き、藍染の布を買って来ました。この布単体でも可愛いのですが、これをプリント布と合わせてデザインすると、もっと素敵になるんじゃないかと。

 また、現地で生産される他の素材にも興味があって、次の買い付けでは毛布を見つけてくる予定です。

ーー 今は販売は実店舗とオンライン販売のみですが、お店を増やすことなどは考えないのですか?

 もちろん多くの人に、アフリカ布の魅力を知ってほしいという気持ちはあります。でも、店舗を増やしてたくさん売って…というよりは、一枚一枚を大事に着てくださる方に、買ってほしいなという気持ちもあります。

 アパレルで働いていた時に、大量に積まれる商品と、大量の在庫をいつも見ていて。私は店舗の店員だったので、その在庫が最後どうなるかは見ていないですが、おそらく捨てられてしまう。自分の服がそんな扱いをされる、と想像したら…。

 なので今は積極的に店舗を増やす方向ではなく、一枚一枚、丁寧に心を込めて作りたい。自分ができる範囲で、届く範囲の人たちに、アフリカ布の魅力をお伝えしていきたいなと思っています。

略歴:アパレルショップ「Masht star」店主・洋裁師。25歳でお店を開くため、沖縄に移住。アメリカやヨーロッパ、アフリカ諸国を訪れて布を買い付け、デザインから縫製まで全て手がける。縫製のお仕事が好きすぎて、趣味が思いつかない…と言うのをしつこく聞いたところ「旅行は好き」とのこと。

http://www.masht-star.jp/