あなたの料理の腕、仕事になります。“シェアエコ弁当屋”の正体

 「こんな美味しい料理作れるなら、お店出せるんじゃない?」

 気軽に言ってしまう言葉ですが、それを実現するハードルはものすごく高いのです。飲食店を出す初期費用だけで1000万円はくだらなく、3年目の廃業率はなんと70%に届くとか。

 お店を出したいけれど、リスクが怖くてなかなか踏み出せない。料理の腕には自信があるけれど、毎日は厨房に立つのは難しい。そんな人を応援し、食べ手と繋ぐサービスがsmallkithensです。

 今回は運営する箕浦恒典さんにインタビュー。これからの消費のあり方まで考えさせられる、そんな時間になりました。

作り手が変わる弁当屋?

―― まずsmallkitchens(スモールキッチンズ)とは、どんな場所なんですか?奥の厨房から、良い匂いが漂ってきます…。

 作り手さんが毎日変わる、お弁当屋さんです。今日は、チキンのオーブン焼きのお弁当を作ってくれていますね。

手作りのトマトソースがかかった、チキンのオーブン焼き弁当。取材陣もいただきましたが、本当に美味しかった…!

 去年の3月から始め、今は新富町と浅草橋の2店舗を運営しています。もともとは定食屋として始めましたが、コロナの影響もあり今はお弁当のみ販売しています。

―― お弁当の作り手が毎日変わる…?どういうことでしょうか?

 複数の作り手さんが登録しており、1人ずつ交代でシフトに入ってもらっています。お弁当は日替わりの1種類で、作り手さんごとのオリジナル。

 料理の腕に自信がある主婦の方や、将来的に自分の店を持ちたい料理人の方などが登録し、お弁当を作ってくれています。

 この形式をとることで、作り手さんのごとに違った味が楽しめますし、作り手側も“毎日”じゃないからこそ、手間暇かけた献立を考えられます。2週間以上前から献立を練って、料理を仕込んでいる人もいるんですよ。

リスクゼロで、料理を仕事に

―― 作り手さんには、自分でお店を開いたり、料理店で働いたりする選択肢もあるはず。なぜあえて、smallkitchensに登録するのでしょう?

 自分のお店を持つハードルって、すごく高いんです。店舗の建設費や内装費などの初期費用はもちろん、集客のためのコストもバカになりません。時間的な拘束という面でも、週2回なら厨房に立てるけれど、毎日レストランで働くのは難しい、という人も多くいます。

 smallkitchensなら、初期費用は0円ですし、集客も運営側が実施。自分のペースで月に1〜4回シフトを入れれば良いので、最小限のリスクで料理を仕事にすることができます。売り上げの55%が、作り手さんにわたるビジネスモデルです。

―― 面白い!たとえば子どもの手が離れた料理上手な主婦(主夫)が、smallkitchensでその料理スキルを活かせるというわけですね。

 smallkitchensは、作り手、お客さん、店舗の3つを繋ぐ、“三方よし”のプラットフォームだと考えていて。

 実はsmallkitchensは、使われていない空き店舗を間借りして、運営しているんです。そうすることでコストを抑えつつ、遊休資産の有効活用にもつながっています。

新富町のお店の外観。

  お客さんも、作り手との距離が近いこの形態を、すごく楽しんでくれていて。

 お弁当なんてコンビニでもどこでも買える時代ですが、「この人が作ったお弁当をまた食べたい」とリピートで足を運んでくれるお客さんもいれば、「この前のあの献立、美味しかったです!」とお店の前で話が弾んでいることも。

 そういう光景を見ていると、「よかったなぁ…」って思うんです。うまく言語化はできていないのですが(笑)。

お弁当は、メニュー紹介と作り手さんからのメッセージ付き。

―― smallkitchensの運営側として、箕浦さんはどんな仕事をしているんですか?

 作り手さんのシフト作りや、集客のための広告運用、次の店舗展開のための交渉など、裏方全般を担っています。

 作り手さんのスケジュール確認や、お弁当の予約ができるLINE上のシステムも開発しました。プログラミングができるわけではないのですが、最近はコーディング無しでアプリを作れるサービスが増えていて、ありがたいですね。

  去年は僕一人でやっていましたが、今ではメンバーは4人まで増え、徐々にいろいろなことが回り始めている、そんな段階です。

smallkitchensの店舗LINEの画面。

ターゲットは、お母さん

―― インターンの経験以外は就職経験がなく、大学を辞めてすぐに起業したんですよね。箕浦さん自身は、どうして起業の道を選んだのでしょうか?

 大学在学中から、自分で事業をやりたいと漠然と思っていました。

 その方向性が定まったのは、大学を留年して仮想通貨関連のメディアでインターンをしていた時のことです。当時はビットコインが盛り上がっていて、仮想通貨で億単位のお金を稼ぐ人が出てきている、そんな時期でした。

 そんななかで、「お金ってなんだろう…?」と考え始めてしまって。

 お金は価値を決め、その価値を交換する役割を果たしているので、提供できる価値をたくさん持っている人にお金が集まるはず。ですがたとえば、「優しい」という価値を持つ人に必ずしもお金が集まるわけではないし、「現金化されていない価値」もたくさんあるのだなぁ、とぼんやりと考えるようになったんですね。

 ですが、たとえばYoutubeといったプラットフォームは、その人の才能や個性など、今まで現金にされていなかった価値を、お金に変えていると気づいたんです。家にあったものを売ってお金にできるメルカリも、その一つですよね。

 そういったプラットフォームを作ることで、才能や個性を活かしてお金を稼ぐ選択肢を増やしたい、そう考えるようになったのです。

―― なるほど、それでプラットフォームビジネスにたどり着いたんですね。ですが、そのなかでも「料理人を応援する」というコンセプトは、どこから生まれたんでしょうか?

 もともと、食の分野に関心が高かったというわけではありません。それより、「半歩踏み出す人を応援したい」という気持ちが強かったんです。

「1歩」が難しくても、「半歩」さえ踏み出せれば、世界は大きく広がります。ですがその半歩を踏み出せないことで、自分の気持ちを諦めている人は周りにも多くて。ビジネスを始めるなら、そんな人たちの背中を押せるものにしたい、思い続けてきました。

箕浦さんのお姉さんが10年以上前に描いた、サッカーからギター、スケボーなど、何でも好きなことをやっていた箕浦さんの絵。「やりたいことをやった人生の方が、やりたくないことをしている人生より楽しいはず。」

 その中で、「自分が応援したい、半歩踏み出したい人は、どんな人だろう?」と考え始めて。そしてその人は、自分の目の前にいました。自分の母です。

 ある日、母が自宅のコタツで電卓を弾いていました。何をしているのか聞いたら、前から夢だったコロッケ屋を開いてみたい、その初期費用を計算している、というのです。

 ノートを覗いてみると、お店を持つにはかなりの金額がかかることが分かりました。母も「やってみたいけど、実現できるかどうか…」と話していました。

  小さい頃から僕にやりたいことをやらせてくれた母の半歩を、何としても応援したい。そう思ったのが、smallkitchens構想の始まりでした。

―― なんと、お母様が構想の始まりだったのですね。まずはどんな風に事業をスタートさせたのでしょうか?

 それこそ最初は、母や母の友人にお弁当づくりを頼んで、御成門の一角で販売していました。

 ですがその場所は、場所代として1日4000円支払う必要があったため、単価800円のお弁当に対してはやっぱりきつくて。それで移動販売の形態なども経て、店舗を間借りする現在の形態にたどり着きました。

お店の中に、移動販売形式だった時のカーゴバイクもありました。

 初期は作り手さんもほとんど集まっていなければ、お客さんにどうアピールすべきかも全然定まっていなくて。お弁当が1つも売れない日もあって、さすがに堪えましたね。

 そこからは徐々に作り手さんが増え、リピーターも増えてきました。こんな初期のサービスに集まってくれる作り手さんにもお客さんにも、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

smallkitchensからコミュニティを

―― 店舗はこれから拡大させていくのですか?

 やっぱり全国展開は目指しています。地元に一つ、smallkitchensがあり、そこで地域コミュニティが生まれている。そんな状態にまで持っていきたいです。

 作り手さんも、今は遠くから重い荷物を運んで、東京まで来てくれている人も多くて。そこまでの思いを持って参画してくれているのは嬉しい反面、作り手さんも地元で活動ができるように、店舗拡大は地道に続けたいです。

smallkitchensのコンセプト、「おなかもこころも満たせたら」。

 飲食店を経営している方からも、「うちの店を使わないか」とお声がけいただくこともあって。

 飲食店を経営していても、やっぱり毎日稼働させるのって、大変なんですね。店を切り盛りすると集客が後回しになり、人が来ないという悪循環に陥っている店舗も多い。

 そんな飲食店の方々とも協力しながら、smallkitchensのプラットフォームを拡大させていきたいと思います。

―― 素晴らしい!でも挑戦し続けるのって、大変ではないですか?逃げ出したい…みたいに思うことって、ないんでしょうか?

 シンプルに、今逃げ出したら、食っていけないので(笑)。

 でもそれだけではなくて、心から応援したい、力になりたいと思える人たちに囲まれているのが、一番の原動力。そういう環境にあえて身を置くことで、自分を奮い立たせている面もあります。

 またsmallkitchensのメンバーや、母をはじめとした作り手さん、インターン時代の先輩など、周りからのサポートが本当に大きいんです。結局挑戦って、誰かのサポートなしにはできないな、と心から思います。

 僕も周りに支えてもらいながら事業を拡大したいですし、smallkitchensを通して作り手さんの挑戦もさらに応援していきたいと思います。

(編集・写真:かない、取材・執筆:鈴木伽蓮)

https://www.smallkitchens.jp/