脱サラ→カバン職人。天職を見つける“回り道”の仕方

「好きなことを仕事に」と言われても、「自分が何が好きか分からない」。そんな人、多いんじゃないかと思います。

今回のUNIQUESは、カバン職人の「かばんばか」さんにインタビュー!彼はとにかくカバンさえ作れれば幸せという、筋金入りの変な人。ですが服飾の学校に通っていたわけでもなく、元は普通のサラリーマンだったそうなんです。

「好きなことって、どうやって探すんだ…?」と途方に暮れるあなたに希望を与えるインタビュー、お楽しみください!

開店1ヶ月で「休業」

ーーよろしくお願いします! まず、何とお呼びすれば良いですか?

「かばんばか」で良いですよ!それか…「かばんくん」とかでお願いします!

大学時代、好きなこと探しのため、自転車・ヒッチハイクで全国をまわる。その過程でインドを訪れ、カバン作りに目覚める。仕事を退職してカバン職人に弟子入り。ブランド「かばんばか」を立ち上げる。2020年2月には、京都に店舗兼工房を作り、独立。カバン以外の好きなものは、ハンターハンターとゼリー。

ーー もはや「かばんばか」で統一してるのですね!では、「かばんさん」で。そして改めて最高なブランド名ですよね。

ありがとうございます!「かばんばか」という名の通り、僕はカバン作りが楽しくて仕方がないカバン職人です(笑)。

自分でデザインすることもあれば、お客さんから個別にオーダーを受けて作ることも。百貨店などに卸すことはせずに、京都に構える自分のお店と、自分のECサイトで販売しています。

京都のお店は今年の2月末、工房・自宅とセットにした形で立ち上げました。と思ったら、新型コロナウイルスの影響で、開店わずか1ヶ月で営業自粛。いきなり「ヤラレター!」という感じですね、ハハハ。

工房の様子。

ーー た、大変だ!それって「ハハハ」とか言っていて、大丈夫なんですか…?

いや、めちゃくちゃ痛手ですよ!出展予定だったイベントも全て中止です。

でも「かばんばか」は、お客さんと直接やりとりしながら、僕のECサイトやSNSを通して販売するのが主なスタイルです。なので、“大ピンチ”まではいっていない。

もし「リアル店舗しか持っていない」「デパートにしか卸していない」という状況だったら、もっと死活問題だったと思います。

ーー なるほど…!超個性的なカバンを作っているのをTwitterで拝見するのですが、具体的にどんなカバンを作ってきたか、教えてほしいです。

最近話題になったのは、花粉症の人が「ティッシュケースを持ち運べるカバン」ですね。

テッシュケースをカバンの中に固定でき、カバンの外側からティッシュを取り出すことができる。

このアイディアは、高校時代まで遡ります。僕は当時から鼻炎がひどく、ボールペンと割り箸でパーソナル・トイレットペーパーホルダーを作り、自分の机に取り付けていたんです。これで席を立たなくても鼻をかめる、と。

でもそんな変わったことをすると、先生に怒られるんです。僕は鼻がかみたいだけなのに…!

そこで外でも気兼ねなく、且つスタイリッシュに鼻がかめるようにと、この「ティッシュケースを持ち運べるカバン」のアイディアが生まれました。

ーー  ドラえもんの道具のようだ!

お客さんからオーダーを受けることも、よくあります。先日作ったのは、高校の美術教師が、ニュージーランドにワーキングホリデーに行くための、美術画材用のカバン。

他には、心臓のペースメーカーを入れるおしゃれなカバンの依頼や、みかん農家の方からの「みかん型」リュックのオーダーなど。どんどん「ニッチ屋」になってますね(笑)。

ーー 面白い。でも、なぜ「個性的なカバン」にこだわるんですか?売ることを考えたら、「流行のデザインのカバンをたくさん作る」手もあるのでは…?

単純に、面白いからです。だって誰も見たことないモノを、自分で作り出せるんですよ?

シンプルでおしゃれなカバンだったら、正直誰が作っても同じじゃないですか。個性的なカバンは、万人受けはしなくても、誰かの心にはめちゃくちゃ刺さるかもしれない。そっちの可能性にかける方が、面白いなあって思ってしまうんです。

大砲バッグ。筒のところからモノを入れられます。

好きなこと探しの4年間

ーー かばんさん、もともとは普通にサラリーマンをしていたんですよね。仕事を辞めてカバンで生きていくと決めるって、すごい転機があったのでは?

直接的なきっかけはあるんですが、ちょっとその前からお話させてください。

僕は、大学生までずっと教師になりたいと思っていました。

でも考えてみると、田舎の中高生が出会う職業なんて教師か公務員くらい。悩んだ末教師を選んだというより、それくらいしか知らなかったのかもしれません。

オンラインでインタビューしました。京都のお店も、早く伺いたいですなぁ。

ですが大学生1年生の時、その固定観念を壊してくれる出来事が起こりました。雪かきのボランティアで福井県に行き、6ヶ国語を操る通訳さんに出会ったんです。

ものすごく人生経験豊かで、素敵な方でした。その方が「先生になると今決めてしまわないで、いろんなものを見た上で、何がしたいか見極めれば良いんじゃない?」とアドバイスをくれたんです。

その助言に忠実に従い、大学の4年間は自分の好きなことを見つけるために費やしました。福井県で漁業をしたり、沖縄県の酪農家に住み込みで働いたり。富士山が噴火して灰がたまった場所に、植物を植えるという不思議な活動にも参加しました。

ーー 本当にいろいろやってる!

そこでついに、「カバンを作る」という啓示に出会ったんです。

それは4年生の夏、インドに旅行に行った時でした。当時僕のイメージの中で、旅人ってドラゴンクエストの主人公みたいな白いローブ着て、紫のターバン巻いてるのかなって勝手に思ってたんです。でも現地に行って、みんなそんな格好じゃないって気づいて。

ーー うん、ローブは着てないですよね…!

それが衝撃で。「せっかく旅人なんだから、もっとらしい格好したい」と考え始めました。自分の理想だったら、こんな格好かなぁ。だったらこんなカバンが欲しいなぁ。あ…、自分でカバンを作りたい!

….となりました。

ーー え、それだけ?!

もちろん帰国してから、実際にカバンを作ってみました。でも、リュックを作ろうとしたのに、ぬいぐるみのような得体の知れないものができた(笑)。

ですがカバン作りの工程は楽しく、作りたい気持ちが全然消えなくて。大学卒業後は1度普通に就職するんですが、脱サラ。京都のカバン職人に、弟子入りすることに決めたんです。

ーー とはいえ、カバンの道に進む決心は大きいはず。どうして「これが自分のやりたいことだ」と確証が持てたんですか?

やっぱり大学4年間で、好きなこと探しをしていたのが大きいと思います。カバンを作ることを考えている時の幸福感は、他のことをやってみた時の感覚と全然違った。比較するものがあったからこそ、カバンの時は「これだ!」と決めることが出来ました。

ーー「好きなことは、探し続ければ意外と見つかる」という希望ですね!

1日100円で暮らす?

ーー 弟子入りしてからは、どんな日々だったんでしょうか?

弟子入りして1ヶ月は何も作らせてもらえず、毎日10時間以上ミシンを踏み続ける日々でした。一通りミシンを使えるようになると、次は練習用のポーチ作り。最初は全く売り物にならないので、売れないポーチの山が積み上がっていきました。

カバン作りの道具たち。

ーー 弟子ってことは、お給料は…?

もちろんお給料はありませんし、むしろ場所代を支払う必要がありました。最初は完全にマイナス。なので、食費は1日100円の生活をしていました。

朝はもやしの味噌汁で、15円。お昼ご飯は、卵をプラスして23円〜28円。晩ご飯は、100g100円の肉を三等分して、50円以下に。

この戦時中かのような暮らしを、1年くらい続けていました。友達と外食してお会計が1000円だった時なんて、もう発狂しそうでしたね。ハハハ。

ーー すごい根気だなぁ。師匠はどんな方だったんですか?

すごく良い人でした。カバンを作ろうとしてぬいぐるみが出来上がってしまう腕だった当時の僕は、一刻も早くカバンで食べていけるようになりたかった。

なので弟子入りする際には「見て習え方式」ではなくて、「1から10まで全部教えてもらえるところ」を探していたんです。スピードを重視するなら手取り足取り習うのが一番良いと、どこかで聞いたことがあって。

師匠はまさに1から10まで教えてくれる方で、何度同じことを聞いても丁寧に教えてくれました。「不器用な人間の方がきちんと間違えるから、覚えが早い」と言ってもらえたのには、励まされたなぁ。

かばんさん作の「ティーバッグ」。モノを収納できるファスナーがついたTシャツ型のカバンです。

ーー どれくらいでカバンを作れるようになったんですか?

1年続けると、なんとか一通りの工程ができるように。そこで自分でオンラインショップを立ち上げて、販売を始めます。それが「かばんばか」の始まりです。

ーー 最初の最初は、誰もかばんさんを知らないわけじゃないですか。どうやって販売したんですか?

逆にかないさんが、毎月10個カバンを売らないと生活できないとしたら、どうします?

ーー うーん、家族と友達に泣きつく…?

うん、それも一つの手ですよね。とにかく、できることを全部やってみるしかないんですよ。僕は、SNSや販売プラットフォームを10個くらい並行してやっていました。

「月に10個」と漠然と考えると途方に暮れますが、10個のページを運用して、各ページで月に1個売れれば良いと思えば、意外にいける気がしてきます。そうやって続けているうちに少しづつお客さんが付いてくれるようになりました。

師匠の元で4年間弟子を続けて、今年独立。自分の工房を持ったという流れです。

何かの「ばか」になる幸せ

ーー やっぱり自分の工房を持つと、めちゃくちゃテンション上がるものなんですか?

僕はカバンを作りたいだけで、工房を持つのが夢だったというわけでもないんです。なので師匠の店でも自分の工房でも、カバンさえ作れれば場所はそんなに関係ないですね。

ふと見回して、「良い工房やな〜」としんみり思うことはありますが。

ーー おお、面白い。では、本当にカバンで良かったのかな?と頭をよぎることって、ないんでしょうか?ほら、1日100円生活の時とか…。

ないですね!カバンで生きていくと決めて、そこから迷ったことは一度もないです。

高校時代、机の上にトイレットペーパーホルダーを作った時から、多分何も変わっていないんです。今も、自由研究の延長をしている気分。「こんなカバンあったら、面白いんちゃう?」を、形にしているだけなんです。

ーー 答えはもう分かりきっているかもしれないんですが、これからやりたいことは…?

いや〜、カバンを作り続けたいですね!カバンから派生した楽しい企画も進行中なので、乞うご期待です!

「かばんばか」というブランド名は、我ながら良い名前をつけたなぁと自負しています。何かの「ばか」になれるって、幸せやなぁと。

僕はいろんなことを試してみてやっと、カバン作りを見つけられたので、皆さんもまずはやってみるのが良いんじゃないかと思います。新型コロナが落ち着いたら、ぜひ京都のお店にも遊びに来てくださいね〜。

※写真は取材のスクリーンショット以外、カバンさんより提供。