現役大学生は、なぜ「花」で起業する?

肩書きは「花クリエイター」。現役の学生起業家。さらには、「1週間で枯れる」という謎の書籍を発売…?

ツイッターでこんなプロフィールを発見してしまったら、取材を申し込まないわけにはいきません。なぜ花で起業?なぜ学生で?みなさんの頭に浮かんだいろんな疑問に、お答えします。

“花に触らない”花クリエイター

―― KENTさんの「花クリエイター」という肩書き、初めて聞きました。どんなことをしているんですか?

花をテーマに活動をしていますが、基本的に“花は触らずに”仕事をしています。具体的には、花屋さんのコンサルティングをしたり、花をテーマにしたイベントや書籍を企画したり、花を使ったアクセサリーブランドを立ち上げたり。

今は大学4年生ですが、去年の4月から花クリエイターの活動を始めました。これらの事業で、「HANARIDA」というブランドも立ち上げています。

現役大学生の花クリエイター。花で人を幸せにしたいと、学生起業。書籍の出版からミュージックビデオの企画、花のアクセサリー制作など、若者と花の接点を作るために活動する。他にもグラフィックデザインや写真、ギター、フェンシング、アカペラなどをこなすマルチプレーヤー。

―― 花が好きだったら、一般的には「お花屋さんでバイトしよう」ってなる気がします。なぜあえて、「花を触らない」クリエイターに?

就活が終わった3年生の後半、まさに花屋さんでアルバイトしようと思っていたんです(笑)。

そこでバイト先を探しに、よくある「パン屋巡り」みたいに、花屋を巡ってみようと思って出かけました。でもそこで気付いたのが、花屋さんは「巡れない」ということ。

なぜかというと、お花屋さんってほとんど差別化できていないんです。「このお店は、こういう花に強い」とか、「この花屋さんは、花言葉を前面に出してるよね」といった違いはなく、みんな似たり寄ったり。

就職先がコンサル系の会社に決まっていたこともあり、「花屋さんのコンサルって、ニーズがあるんじゃないか」と思いついて。

とはいえコンサルの知識も何もないので、まずは近所の花屋を訪れて、「コンサル料はいらないので、成果が上がったら報酬をください」という形で、勉強も兼ねてスタートしました。

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―― すごいアイディアと行動力だなぁ。具体的に花屋さんに対して、どんなことをしてきたんですか?

まずお花屋さんって、営業の方がいないんですよね。そこで営業代行から仕事を始めました。まずはイベントを企画している人に、「会場で花を使いませんか?」と片っ端から声をかける。説得できたら、会場と花屋の仲介やイベントの準備を手伝っていました。

さらに、Instagramのアカウントやウェブページといった、無料でできるお客さんとのタッチポイント作りができていないお店も、たくさんあって。グラフィックデザインも得意なので、そんなページを作る手伝いもしていましたね。

あと、チラシを配る範囲の提案。知らないお店のチラシが自宅のポストに届いていること、よくありますよね。でもそのチラシを見て実際にお店を訪れたことって、ありますか?

花屋さんは、ものすごくローカルな商売なんです。だから僕が提案したのは、無駄に広範囲の家にチラシを配るのではなく、本当に近所のお宅だけにドライフラワーを添えたメッセージカードを配ること。

実際にそのドライフラワーがきっかけで、来店してくれたお客さんもいたみたいです。

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花で日本の幸福度を上げる

―― 書籍の制作からイベントの企画まで、ものすごく忙しそうです。でも大学生って、のんびり過ごしていても良いわけじゃないですか。なんでそんなに頑張れるんでしょう…?

もともとは、ビジネスにもコンサルにも全く興味がなくて、将来は家庭科の先生になろうと思っていたんです。なので大学生の前半は、授業を受けて友達と遊んで、いわゆる普通の学生生活を送っていました。

気持ちが変わった一番のきっかけは、大学ですごく仲の良かった先輩が、自殺で亡くなったこと。さらに立て続けに自分の祖父母も亡くなって。

人っていつか死ぬんだなって、その時に強烈に実感したんです。だったら明日死んでも後悔しない生き方をしきゃ、と。

そう考えると、教師という職業は時間の流れがすごく遅い。僕は大学で教えたいと思っていたので、教授になれるなんて何十年も先の話。道半ばで死んだら、絶対に後悔する。

だからこそスピーディーに成果が出て、世の中に影響も与えられるビジネスの世界で、全力でやってみたいと考えました。

―― ビジネスの中でも、「花」に焦点を当てた理由はなんでしょうか?

家族が花好きだったこともあり、もともと花は好きだったんです。花って、ものすごくポジティブな存在じゃないですか。贈る人も送られた人も、それを見た人も幸せになるし、言葉を使わなくても人を癒せる。

本物の花を閉じ込めた、KENTさんデザインの新作リング。HANARIDAではアクセサリー事業も行います。購入はこちらから。
https://hanarida-store.com/

花贈る人が増えれば、日本の幸福度が上がると本気で思うんです。花を贈らない僕たちの若い世代にこそ、そのカルチャーを広めたい。だからこそ、花屋というよりは花クリエイターとして、発信したいと考えました。

また、これは花屋のコンサルを始めてから気付いたのですが、花業界のマーケットってすごく魅力的なんです。本業のお花屋さんはいても、コンサルや営業のポジションはガラ空き。

今でもFAXで注文取っているお店も多い中、これは変化に向けてチャンスがあるなと思いました。

―― とはいえ1年間やってきて、心が折れそうになることはなかったんですか?

何回もありましたよ(笑)。この1年で何百人という人と会ってきたので、もちろん人間関係が上手くいかないこともありました。

中でも一番辛かったのは、借金。借金といっても最初は運営に必要だった5万くらいなんですが、それでも自分の娯楽に一切お金を使えなくなり、すごいストレスでした。コンビニの100円のエクレアも買えなかったな…(笑)。

それでも諦めようと思ったことはなくて、壁があっても乗り越えてこられました。失敗したらそれが学びになるし、悩んでいる時間があったら行動した方がプラスだと思うので。基本的に僕はすごく前向きなんです(笑)。

“枯れてしまう”書籍

―― 活動を始めて1年なのにSNSでも注目されていて、すごいセルフプロモーション力だ!と尊敬が止まりません。どんな努力をしてきたのでしょう?

ありがとうございます(笑)。まずは肩書きの「花クリエイター」も、結構悩んだ末決めました。名前とか肩書きって、ナンパでいうところの最初の声がけじゃないですか(笑)。

だから、オリジナルでキャッチーな言葉を考えて、花クリエイターに行き着きました。

あとはインフルエンサーの方たちと、コラボさせてもらったことも大きいですね。きっかけは書籍制作。「花束を買いに」という、花言葉から花を贈るテーマの本を作ったんです。

花言葉って、花を贈るきっかけというか、「言い訳」になるんですよね。でも全く身近じゃないし、まとまった本や資料もない。だったら自分で本にしよう、と思い立ちました。

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でも辞書みたいに花言葉が並んでいる本だったら、誰も欲しくないじゃないですか。そこで自分が買う立場だったら…?と考えて、「好きなモデルやイラストレーターの絵が載っていたら、買うかもしれない」と思いついたんです。

そうと決まれば、ツイッターでモデルさんやクリエイターの方々に、ひたすらダイレクトメッセージを送り続けるのみ。結果的に、50人以上の方に協力してもらえました。そんな経験が自分のプロモーションにも、つながったと思いますね。

―― 書籍は、どうやったら買えるんですか?

実は、その書籍は一度「枯れてしまった」んです。1週間限定の予約販売だったので。

もともとは半年ほどの販売期間を考えていたのですが、普通すぎて面白くない。花が咲いたら枯れるように、本の予約も「1週間で枯れる」というコンセプトにしました。

実は3/1から再販が決まりました!いろんな人に再販を望んでもらって、また咲かせることができてとても嬉しいです。

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―― これから、花クリエイターとしてどんな活動をしていきたいですか?

花クリエイターの仕事も、実はもうすぐ枯れちゃうんです…。

―― え!どうしてですか…?

シンプルに、4月から就職するから(笑)。もちろん趣味レベルでは続ける予定ですし特に未練はないのですが、周りから「もったいない!」と言ってもらえるところまで事業として成立させられたのは、素直に嬉しい。

でも僕は前述の通りポジティブ人間なので、「個人として生きていける」と言われている人が大きな組織で働いたら、逆にすごいことができるんじゃないの?と思っています。

―― ポジティブですね(笑)。

  会社の仕事で花をプロデュースできる機会もあるかもしれないし、取引先も増えて人間関係も広がる。会社勤めだからこそ、花クリエイターの活動もスケールアップできるんじゃないかって密かに考えています。

  会社の中でのオンリーワンになれるように、「花の人」という自分のブランディングも臆せずにしていきたい。とりあえず、オフィスの自分の席にはお花を飾ろうって、今から決めています(笑)。