人生をカッコ良く遠回り。ロックンロールな店長の人生論
時刻は午前1時。閉店後の居酒屋のテーブルにはキンミヤ焼酎のボトル。取材させてもらったのは、田端の居酒屋「らきいたろう」の店主、平真(たいら・まこと)さん(44)だ。ほっと落ち着く雰囲気と、毎日食べたくなってしまう懐かしの味を求め、店内はいつも田端住民で賑わう。
普段から飾らない真さんだが、酔っ払っても気さくな笑顔は健在。焼酎片手にロックンロールな人生を語ってくれた。UNIQUES初の酔っ払いインタビュー、お楽しみください。
人の顔を思い浮かべて料理
ーー真さん、よろしくお願いします(らきいたろうは私の友達の行きつけの居酒屋です)!一押しメニューは何ですか?
リクエストされたものを作れるのが、らきいたろうの自慢。メニューは一応あるけど、どんな気分かお客さんに聞いて、その時食べたい料理を作りたいの。お好み焼きを焼いたこともあったよね?
(常連の友達)あったね。「お腹すいた、肉、炭水化物」とかリクエストすれば、超いい感じに作ってくれるよ。
ーーそれは良い!今日いただいた鳥肉もめちゃくちゃ美味しかったですが、料理のコツは?
俺は結構新しいもの好きで、レシピを見たり人から聞いた料理をアレンジしたりしているよ。いろんなレシピを頭に入れておいて、組み合わせて自分流のレシピを作っているかな。
西麻布の一流料亭の経営者なんかも常連さんなんだけど、いつも満足して帰ってもらえているよ。「腕上げたなー!」って言ってくれて。舌が肥えている人に認めてもらえるのは、やっぱり自信になるよね。でもだからこそ、必死で料理の勉強しているんだけど。
ーー自分流のレシピを作る時は、何を一番大事にしているのですか?
人の顔を思い浮かべて料理することかねぇ。「あのお客さん、これ喜んで食べてたから、こっちの料理も好きかな」とかね。お客さんが食べた時の反応もすごく気になるし、しっかり見てる。表情を見て、微妙だったかな?とか悩んで、同じ料理でも味付けを変えてみたり。
仕込みもいつも賭けみたいなもんで、「今日あの人来そうだから、好物作っとくか!」と思って、結局来なかったり(笑)。とにかく来てくれた人に満足してほしい、だから妥協はしちゃいけないなと思っている。
ーーお酒へのこだわりは?
お酒はまあ、飲みたいもん飲んでくれ!という感じ(笑)。グラスが空いた時のカランカランの音は、聞き逃さないようにしているけどね。
ーーお店作りで大事にしていることは?
みんなのリビングにしたいな。居心地の良さが一番。とは言えそこまで意識していることはなくて、来てくれたお客さんはとにかく大事にするとか。もう2回来てくれたお客さんは全員大好きよ。
(常連の友達)みんなご飯を言い訳に、真さん家に遊びに来るみたいな感覚だよね(笑)。
ーーいいなあ!らきいたろうの名前の由来はなんですか?
4人家族なんだけど、家族の名前を崩して並べ替えたの。あとはみんなが来てくれたら、らっきー!と思って。
漫画のような人生
ーー真さんが居酒屋を開くまでの道のりを教えてください!
中学高校といろいろやんちゃはしていたんだけど、そこは割愛して…(笑)。高校を卒業した後は会計の専門学校に行ったのね。勉強はあんまりしなかったんだけど、数学はゲーム感覚で解けてたから、得意だったみたい。
で、専門学校を卒業して就活もしたんだけど、面接に行く格好が頭は坊主で、紺のダブルボタンのスーツ、ヒョウ柄のファーコート、ネクタイピンは真珠、という出で立ちだったのよ。まあもちろん上手くいかないよね(笑)。
ーーリアル漫画の世界…!
そんなんだからまずは一度地元に帰って、できる仕事にありついた。とりあえずは土方の仕事で、ビルの解体現場で働いてたんだよね。その後はトラックの運転手。大型車の運転免許取った翌日から働き始めてさ。2トントラックの運転が怖くてしょうがなかった。「行きは運転するけど、もう怖いので帰りはお願いします」「はい給料半分」みたいなことをやってた(笑)
その後はまたがらっと変わってクリーニング工場。工場から店に服を運ぶワンボックスカーの運転ならできるだろうと申し込んだんだけど、「こいつはしっかりしてる」と最初から工場長に抜擢されて。ちょうど21歳の時かな。
ーー若い!具体的にどんな仕事をしていたのですか?
まずはみんなのポジションを把握するところからだよな。いろんな人と飲みに行って「この人はこれが得意なのね」とか勉強してさ。実際の仕事としては、大量の服が届いたらまずはポケット検査。小銭が入ってたりするんだけど「ポケットに入ってませんでしたか?」という問い合わせも来るから、大事に取っておく訳よ。
その後は衣類の種類とか状態を見て、洗剤の種類を決める。洗うのと乾燥させるのは機械がやってくれるんで、その後のアイロン仕上げだけ、奥さんたちがやる流れだね。工場の中も薄暗くてね、ほんと昭和って感じの工場だったよ。
ーー21歳でその工場を仕切るって、想像しただけで大変そう。
でもある日突然ルートに入らないか?と言われて。つまり工場長じゃなくて作業員の一人になれって。まあ当時俺が紹介した奴が逃亡してしまって、問題にはなってたんだけど。そう言われたその日に辞めた。悔しかったなあ。
その時に会社に依存しすぎるのは良くないなって感じたよ。駒の1つとして扱われる関係じゃなく、1対1の付き合いができなきゃダメなんだなって。その時感じた会社との付き合い方は、ずっと体に染み付いている気がするなあ。その後は、某ディーラーで新車を売る営業に。
ーーなんでまたディーラー?
たまたま募集してて、受かる訳ねえだろうって受けたら受かったんだよ。入社1週間で新車を売ることができて、所長や先輩にも可愛がってもらえていたんだ。そんな矢先、大事故を起こしてしまって。先輩を乗せた車で4トントラックに突っ込み、俺は頭蓋骨にひびが入り、手足は骨折、肺も割れ、両親は病院から葬式の準備をして来いと言われる始末。先輩は鞭打ちくらいで済んだんだけどさ。
俺も何とか一命はとりとめたけど、半年は入院が必要だろうと言われる重症っぷりで。でも俺はその時、所長に恩を感じていたことがあって、とにかく復帰して車を売りたかったの。だから、1ヶ月半で退院した。
ーーえ!気合いで治すって本当にあるんですね?!
まあ足は引きずっててさ。店のトイレが和式だったんだけど、足を曲げられなくて、毎回所長に別のトイレまで運転してもらってた(笑)。そんなのが23歳くらいの時だな。
ーーディーラーは何年くらい務めたんですか?
1年半かな。今度仕事を変えた理由はバンド。実はバンドを20歳くらいから真剣にやっていて、営業だと休みが不定期だから練習もライブも思うようにできなくて。どうしてもバンドを本気でやりたいと思い、今度はツテのあった家電メーカーへ。
そこでは経理をやっていて、何と17年も働いたんだよ。得意分野だったけど、決算書を作ったり売上の報告したり、仕事は面白くなかったなあ。ただ2010年に結婚したのもあって、残業代のためにいっぱい働いてた(笑)。
ーーバンドで食って行くぜ!という気持ちはなかったのですか?
夢としてはもちろんあったよ。でも途中で諦めた。ギターボーカルやらベースのサポートやらをしていたんだけど、結局組んでいたどのバンドも解散。まあ難しい世界だよね。生き様としてはかっこいいけど、生き様だけで終わってしまう。
「頑張ってます!」って言っても「で?」って。もちろん自分らのバンドを好きって言ってくれる人がいたのは本当にありがたいし、バンドもめちゃくちゃ楽しかったんだけどね。でも、それだけじゃダメなんだなって。
バイトしながら料理を学ぶ
ーーらきいたろうを開く転機は?
勤めていた会社の吸収合併があって。上司は変わるわ、規則が細かくなるわ、何だか新入社員扱いされるわで、すごいストレスだったんだよね。2011年に子供が産まれたこともあって、こっそり居酒屋でバイトを始めたの。
そこでいつかの卒業アルバムでコックになりたいって書いてたのを思い出した。「あー好きなことやってないな」って。それで「俺も居酒屋やっちゃおっかなー」ってぼんやり思い始めたんだよね。キッチンじゃなくてホールだったんだけど、料理を運びながら調理法も観察して勉強したよ。
(常連の友達)震災の時のいい話もあったじゃないですか。
ん?もういいじゃん(照)。えっと、震災の時は俺は川崎のオフィスにいて、妻は新宿で働いていたの。しかも妻が妊娠5ヶ月くらいでさ。地震でこれはやばいと思って、大慌てで車に新宿まで行ってさ。普段は1時間もかからないのに5時間くらいかけて、やっと落ち合えて。その時に、家族の側に居られる仕事をしないといけないな、と思ったの。それも店をやろうと思った理由の1つ。
ーーでもなかなか決意するのは難しくないですか?
親父の一声に背中を押されたかな。何となくずっと恐れている存在だったんだけど、その親父に「やりたいことやればいいじゃん」と言ってもらえたことがあって。その瞬間ハッとした。
人生で今が一番若い
ーーお店を作ったのはいつですか?
2015年の8月15日。最初は本当に手探りだったよ。でも何か自信はあったよね「この店のウリは俺自身だ!」みたいな(笑)。でも「今日そのメニュー終わっちゃって…すみません」とかもよくあったし、メニューも5品くらいしかなかったし。
ーー今は100%ハッピーですか?
ストレスは全くないよ。好きなことをやれて、家族も食わせていけて、健やかに生きていられて。らきいたろうを始めて良かったなあと。
ーーでも現状に100%ハッピーでなかったとしても、真さんが「らきいたろう」を開いたように、行動に移すのって難しいですよね。
そうだなあ、でも現状に満足していなかったとしても、◯◯したい!という気持ちがなければ次の行動に移せないよね?だからまず何をしたいのか、なぜ今ハッピーじゃないのか、深く突き詰める所から始めたら良いのではないかな。自分が譲れないものは何なんだろうってね。
でもお店としてはまだまだ。らきいたろうは今は俺がいることで成り立っているけれど、俺がいなくても成り立つようにしたい。
ーー他の店舗もやりたいということ?
うん、やってみたい。ラム肉メインで居酒屋作ったら面白いかなあとか考えているよ。まあ何も決まってないんだけど、結局人生で今が一番若いからね!何でもできるよ。
略歴:トラック運転手、クリーニング工場長、車販売の営業、家電メーカーの経理職などを経て、居酒屋「らきいたろう」を田端に開く。奥さんのご飯が好きなので、家では料理しないとのこと。元バンドマンで、中学生の時最初にコピーした曲は長渕剛のとんぼ。2児の父。