星のことなら、お任せを。「星のソムリエ」の日常

 人でごった返す週末の新宿駅東口。星のソムリエの泉水朋寛さん(43)との待ち合わせ場所だ。最後にやりとりしたメールには「ケータイを持っていないので、何かあれば公衆電話を探します」と書いてあった。「本当に会えるかな…?」と不安になり出した頃、星柄のリュックと星柄のシャツを身につけた人がスーッと目の前を通過…。

  そんな泉水さんは、会社員として天体コラムを執筆したり、天体関連のソフトウェア制作にも携わる傍ら、星のソムリエとして六本木ヒルズの天体観測イベントの解説員も担う、まさに星空のプロフェッショナル。 星空をこよなく愛する謙虚な姿勢と、温かい人柄が溢れるインタビューをお届けします。

星のソムリエとは

ーー泉水さんのお話を聞くの、本当に楽しみにしてきました(泉水さんは、前職での取引先の方です)!まずは誰もが気になる、「星のソムリエ」とは何なのか教えてください。

 星のソムリエは資格の名称で、星空案内人資格認定制度というものに基づいています。星空や宇宙の楽しみ方をみなさんに伝える、というのが主な活動です。

 星のソムリエとして認定されるには、星座についての知識を問うレポートや、望遠鏡の使い方の実技、実際に屋外に出て人に星空の説明をするといった試験に合格する必要があります。僕は10年前に取りました。

 もちろんこの資格がない人が星空の説明をしても全く問題ないので、「星のソムリエになったんだし、天文台のガイドをやってみよう!」というように、自身の活動を広げるのに役立つ資格だと思っています。

ーーどうやって勉強するのですか?

 テキストもありますし、天文台や科学館で講習会が開かれていますよ。そこで星のソムリエ同士のつながりができたりもします。

ーー星のソムリエとしてどんな活動をしているのですか?

 まずは、六本木天文クラブで活動しています。六本木ヒルズ森タワー屋上で望遠鏡を使って星空を見たり、日食などの天体現象の観察をしている団体なのですが、そこで解説員をしています(私も一度参加しました。望遠鏡だと土星や火星まで見えて楽しかったです!)。

 星空に関するニュースや、宇宙の話題について解説する教室もあります。あとは三鷹ネットワーク大学というNPO団体が開いている星に関するイベントで、講師を勤めています。

ーー人に星の話をする楽しさは、どんなところですか?

 相手が喜んでくれたり、星をもっと好きになってくれたり、というのは純粋に嬉しいです。ただ、全く星に興味がない人を、星好きにさせたい訳ではないです。

 興味をすでに持ってくれている方に、「こういう風に観察したら楽しいですよ」とか「こんな星座もありますよ」といったお話をして、その人の世界を少しでも広げられればと考えています。

ーー星の魅力を伝えたい、という思いは昔からあったのですか?

 いえいえ、昔は人見知りで話すのがあまり得意ではなかったので、星の解説をするなんて考えたこともありませんでした。今も克服できているか分かりませんが…。

ーーこれは昔の泉水さんのことを、お聞きしていかねばなりませんね…。

六本木天文クラブの観望会の様子。会員制ではなく、誰でも参加できます。泉水さん撮影。

26歳で研究者の道を挫折

ーー定番の流れですみませんが、泉水さんの幼少期について教えてください。

 こちらも定番ですが、分かりやすく天文少年でした(笑)。生まれは岡山県で、星のきれいな所でしたよ。星が好きになったきっかけは大きく3つあります。

 1つ目はのめり込める星の本に出会ったこと。と言っても親が星好きだった訳ではなく、様々な本を与えてもらって、その中で「星座を見つけよう」という本がひどく気に入った、ということでした。

 2つ目は、キャンプに連れて行ってもらって、満天の星を眺めた経験。そこで、本で勉強した星座や天体を、実際の星空の中に見つけると「おお、すごい!」と感動しましたね。

 3つ目は、NHKの科学番組。探査機が撮ってきた宇宙の画像を見てワクワクしたのを覚えています。あとは望遠鏡も親に買ってもらいました。

ーー好きなことを伸ばしてくれるご家庭だったのですね。

 そうですね、勉強しなさいと言われたこともなく、やりたいことがあれば全力でサポートする、という家庭でした。中学に入ると、漠然と研究者になりたいと思うようになりました。高校生になっても天文好きは止まらず、天文部や科学部に入っていました。数ある天文学の専門の中で具体的な方向性が見えたのも、高校生の時です。

 図書館でシミュレーション天文学の本を読んだのですが、とにかく面白くて、大学ではこれを勉強しようと決めました。ブルーバックスという、自然科学系のシリーズ本の内の一冊です。

ーーシミュレーション天文学…?初耳です!

 宇宙ではこういう現象が起きているはずだ、というのをコンピューター上で再現する学問です。実際に星空を観測した結果に基づいて再現したり、論理に基づいて計算をして再現したり、といった方法があります。

 再現する現象は例えば、星の温度が上がったらこうなるはずとか、銀河同士がぶつかったらこうなるだろう、とか。宇宙で起きていることが、実際に自分の目の前の画面の中で起こせるんですよ。これはとても魅力的です。

ーー天文学に突き進む上で不安はなかったのですか?仕事になるのかな…?とか。

 あまりなかったですね。基本的に楽観的なので、まあ何とかなるだろうと考えていました。ははは。

ーー研究者志望ということは、博士課程にも進んだのでしょうか?

 進みました。でも博士課程の2年で中退しました。当時シミュレーション用のプログラムを作成する必要があったのですが、数週間取り組んでもうまくいかなかった。並行して書いていた論文も、同様に行き詰まっていました。自分の力が足りていないのでは、とぼんやり自覚し始めてはいたのですが、それでも研究は続けていきたいと思っていました。

 そんな中、当時の指導教官からかなり強い言葉で叱責を受け、それが決定打となりました。指導教官にここまで言われるならば、仮に博士号はとれたとしても、研究者として成功はできないだろうと。その言葉を聞いた次の日には、辞める決意をしていました。26歳の時です。

ーーなんと…。でもその挫折があったからこそ、現職との出会いがあったということですよね?

 そうですね。大学院を辞めた後は、アルバイト以外に働いた経験もない中、焦りながら就職活動をしていました。

 そこで大学院の同期が紹介してくれたのがアストロアーツです。かないさんはご存知かもしれませんが、アストロアーツは天体関連の様々な事業をやっている会社で、空にスマホをかざすと星座を教えてくれる「スマートステラ」「iステラ」というアプリの開発や(Android版のスマートステラでは、泉水さんの天体コラムが読めますよ!)、星座や天体に関する月刊誌の発行、プラネタリムや科学館向けのシステム、コンテンツ制作などを行っている会社です。

 面接を受けに行って、質問はないかと聞かれた時に「仕事にピアスをして行っても良いですか?」と大真面目に質問したところ、「全然問題ありませんよ」と優しく答えてもらい、無事に採用してもらえました。今は天体関連の記事を書いたり、ソフトウェアの開発を手伝ったりしています。

直談判で異国の星空ガイドに

ーーニュージーランドに行っていた時期があるという噂を聞いたのですが…。

 はい、行っていました。2005年から1年間です。

ーーあれ、1年も行っていたんですか?仕事は…?

 休職して行かせてもらいました。当時会社でやっていた大きな仕事が、一区切りついた時期だったんですね。「この仕事が終わったら、ニュージーランドにきれいな星を見に行くんだ!」とか思っていました。

 最初は普通に旅行として行こうと思っていたので、本屋でパラパラとガイドブックを見ていたら、見つけてしまったんです。ワーキングホリデー(働いて滞在資金を補いながら、最長1年間の海外生活を体験できる制度)なるものを。

 しかもその時29歳で、ワーホリビザは30歳までしか取れないんですよ。東京では絶対に見られない南半球の星空を、1年中ずーっと見られるなんて夢のような話で。南十字星に呼ばれた、と言っても過言ではありません(笑)。

 ですが1年という長い期間なので、さすがに会社には退職届を出しました。そうしたら休職扱いで良いから、また戻っておいでよ、と言ってもらえました。

ーー良い会社ですね。

 ですよね。ニュージーランドでは最初の9ヶ月はオークランド、残りは星がきれいなことで有名なテカポという町にいました。オークランドでは日本食レストランのアルバイトでお金を稼ぎながら、週1、2回天文台でお客さんに星座や天体の解説をするガイドのボランティアをしていました。

 これは星のソムリエの資格を取る前ですし、人と話すのは得意ではなかったので、大変でした。でもせっかくニュージーランドに来たのに、日本と同じように過ごしても仕方ないと思い、一念発起した訳です。

ニュージーランド、テカポの南十字星と天の川。泉水さん撮影。

ーーガイドの仕事というと、英語はかなり勉強したのですか?

 正直そこまでは勉強していません。「これがしし座です」などの説明をするだけなら、難しい文法もいりませんし。星の知識さえあれば、英語は日常会話レベルで何とかなりました。

ーー大事なのは話の中身ということですね。

 そんなオークランド生活も楽しかったのですが、やはりテカポに行きたいという気持ちもありました。そこで旅行者向けのテカポの星空ツアーをやっている会社に、「タダでもいいから働かせてほしい」とお願いしました。

 そうしたら何と、「人足りなかったし、日本人のお客さんも多いからちょうどいい」と雇ってもらえたのです。

 それから3ヶ月ほどテカポで星空のガイドを務めました。まさに空一面に星。南半球の空を満喫できて、もう「これだーーー!」という感じです(笑)。

ーーガイドの仕事はのやりがいはどんな所でしたか?

 正直、「僕の話が面白い」とか「案内が上手だ」とかは、どうでもいいと思っていました。とにかく世界一と言われるテカポの星空を見て、お客さんが「感動した!」と言ってくれることが、何より嬉しかったです。ほとんどの人にとっては一生に一度きりの機会ですから。

 逆に天候不順のためにツアーができない時が、自分の力ではどうにもならないことですが、とても辛かったです。その後もう少し紆余曲折はあるのですが、無事にアストロアーツに戻りました。

 ガイド経験を通して、星の話で喜んでもらえるのが嬉しいということにも気づき、星のソムリエの資格を取るきっかけにもなりました。そして今に至ります。

今の仕事に磨きをかける

ーー突然ですが、宇宙には行きたいですか?最近何かと話題ですよね。

 楽に行けるなら行きたいですね。宇宙は大気の影響がないから、星がよりきれいに見えるんです。地球で星を眺めると、チラチラと星が瞬いているようにみえると思いますが、あれは大気の影響です。

 もちろんそれはそれできれいなのですが、宇宙の方がシャープに見えるので、その光景を見てみたいという気持ちはあります。

ーー星自体がキラキラ光っているんだと思っていました…。ではこれからやってみたいことはありますか?

 ううん、実はあまりないです。新しいことをやりたいというより、今やっている事を磨いていきたいですね。これから何かのきっかけやお誘いがあったときに、そのチャンスを逃さないですむように。

 あとは知らないこともまだ山ほどありますから。最新の宇宙の理論もついて行けていないですし、自分で理解するのと人にわかりやすく説明するのは全然違うので、そこも腕を磨かないといけません。

10年後は岩の専門家かも

ーー最後になりますが、人生において譲れないことは何ですか?

 えええ、難しい。

ーーすみません(笑)。でも絶対に星には関わっていたいのではないですか?

 どうでしょう。人生80年だとしたら、まだ半分しか生きていないですよね。だったらこの先、もっと好きなものと出会ってしまう可能性はあります。そうしたら、残りの人生はそちらに懸けるということはあり得ます。

ーー確かに!!10年後は岩の専門家になっていた…とか。

 そうです。なので星が譲れないというよりは、好きなことをこだわってやる、ということ自体は譲れないですね。今の所は星が一番好き、ということです。そうは言っても、なかなか星好きが変わることもないとは思いますが。

ーー星好きの中にも、星座にまつわる神話が好きな人もいれば、宇宙の理論が好きな人もいると思いますが、泉水さんは何が一番好きなんですか?

 星を見るのが一番好きです。そして望遠鏡を使ったり遠征したりしてハードに見るというよりは、日常の中で見ることが好きです。

ーーでも日常で見ると言っても、東京って全然星が見えないではないですか。もっと田舎に住んで星を見ていたい、とは思わないのですか?

 確かにもどかしいこともあります。ですが僕は空を見ること自体が好きなので、仮に空に星が3つしか見えなくても、その3つを見るのも楽しいのです。これは本当に嘘偽りなくそう思います。

 月は明るいので、東京でもよく見えますしね。もちろん星がよく見える場所に行けば、普段見えない星も見えて、それはそれで嬉しいです。

ウルトラマンと月の共演。こんな写真は都会ならではですね。泉水さん撮影。

略歴:星のソムリエ ®(星空案内人)。六本木天文クラブでの天体観測イベントでの解説員や、三鷹ネットワーク大学で講師を務める。ニュージーランドでの星空ガイドの経験あり。天体関連事業のアストロアーツの会社員でもあり、天体コラムの執筆やソフトウェアの開発も行う。星以外では、ペンシルパズルとスポーツ観戦が趣味。好きなバンドはピロウズ。街中で星のマークを見つけると喜ぶ。

泉水さんの星のソムリエとしての活動を知るにはこちら。

https://twitter.com/RETsSeeTheSky