【Vol.2】バー経営者は、なぜ舞台の脚本が書けるのか

変幻自在マインドを広める

ーーソニー時代のメキシコ駐在や世界旅行、年間500万円の飲み歩き生活などを経て(Vol.1をぜひお読みください!)ついに変幻自在バーが立ち上がりましたね!そもそも変幻自在の名前の由来は何ですか?

 お酒、料理、音楽、コミュニケーション、アートといった要素を、全部取り込めるお店にしたかったから、名前には幅を持たせたくて。

 だから「何だか分からないことが個性だ!」と割り切って、変幻自在に決めました。正直お店づくりのプロの方からは、「四字熟語の名前がついたお店なんて流行らない」と忠告していただいていたんだけど(笑)。

ーー忠告したくなる気持ちもちょっと分かります(笑)。お店のコンセプトと目指すものを教えてください。

 株式会社愛と同じで、「相互理解を深めて世界平和に貢献すること」がテーマ。世界65カ国を旅してやっぱり思ったのは「何でこんなに争いが絶えないんだろう?」ということで。

 でも突き詰めて考えると、争いは相手に対する怖れや、理解しようとする気持ちの欠如からしか起きていないと思うんだよね。いくら武力や政治がどうとか言っても、互いを知って尊重する気持ちがないと始まらない。

 そんな思いがあって、変幻自在は相互理解の精神を広めるエンジンみたいな場にしたい、と。

 学生時代は国際交流系の団体に所属していたんだけど、「国際交流をしよう!」と声高に叫ぶだけでは、重くなってしまうと思うんだよね。

 様々なバックグラウンドの人が自然に混ざり合って交流できる場を作り、いつの間にか相互理解の精神が育まれるようにもっていく。それが自分ができる世界平和への貢献の第一歩なのかなと。

ーーそんなお店にするべく、大事にしていることは何ですか?

 やっぱり会話。この路地裏の立地もそれにはもってこいで。ビジネスだけ考えたら、絶対大通りにお店を出した方が人が来るんだけど、一人ひとりときちんと話ができるお店にしたいと思ったら、この立地はちょうど良いんだよね。

 以前はランチも営業していたんだけど、ランチだとどうしても作業的になっしまうし、お客さんとも会話ができなくて。体も疲弊して苦渋の決断だったけれどやめてしまったんだよね。

 お酒や食べ物はどちらかというと、コミュニケーションを生むツールの1つと考えている。だから「飲食店経営者」と言われると、ちょっと違和感があったりするんだ(笑)。

お店前の黒板のメッセージは、不定期に変わっていますよ。

個性があるからこその多様性

ーー互いを理解するために必要な会話を、まず第一に大事にしているということですね。

 そう、でも相互理解って、多様性が確保されているからこそ、促されると思うんだよね。そしてその多様性は、それぞれの個性が花開くことで高まる。

 子どもを持ってから、生まれながらの個性って本当にあるんだなあと実感したんだけど、分娩室の赤ちゃんってみんな全然違う動きをしているんだよ!まだ誰からも何の影響も受けてない時期なのに。そう考えると生まれながらの個性は、磨かなくてもそれだけで価値はある。

 でも磨くともっと楽しい。個性が光っていると「この人面白い!」ってお互い興味を持ちやすくなよね。だから変幻自在は相互理解の事前のステップとして、個性を存分に表現できる場でもありたいのです。

ーーそれぞれ個性があるからこそ多様性が生まれ、コミュニケーションを通してその多様性を理解し受け入れる。それが平和につながっていくと。

 そうそう。変幻自在ではプロの方の音楽ライブだけでなくアマチュアの方のもやったりするんだけど、それにはそういう理由もあるんだ。

 歌が好きで素晴らしい歌声を持っている人にはプロかどうかじゃなくてとにかく歌って欲しいと思っちゃうんだよね。きっと本人の自信になるし、個性をさらに磨けると思うし。

 そういう人を見て他のお客さんも「俺もああいう場に立ってみたいな」とか「自分をもっと出していってもいいかな」って思ってもらえるのが良いことだなって。

 自分の個性にフタをしてしまっている人もいると思うから、年齢も肩書きも何も関係なく、変幻自在はそのフタを外せる場所にしていきたいな。

ーー今思えば、変幻自在で行われている多彩なイベントも、その考え方に基づいていますね。

 例えば福井県の会、秋田県の会のような地域の会から始まり、落語家に来ていただいた落語会やら、サルサの先生を招いたダンス教室やら。どのイベントも、未知の存在に触れてそれを理解したい、という思いは一貫しているな。

 最近特に力を入れているのは、演劇。7年前にふと演劇をやりたい!と思い立って、全くの素人なのに脚本を書いてみたことが始まり(笑)。今では俳優さんの知り合いもできたり、お手伝いさんに活躍してもらったりで、毎年変幻自在のバー空間をそのまま使って舞台を上演しています!

日常すべてから学ぶ

ーーそれにしてもいきなり脚本の執筆と演出って…。

 でも考えてみて。俺は毎晩バーでお客さんの会話を聞いているから、その会話のデータベースたるや、凄まじい量なんですよ。

 そして舞台の脚本ってまさに人の会話から成っているじゃない?「こんな話しているお客さんいたよなあ」とか、ものすごく脚本を書く上でヒントになる。

 あ、演出もそう!昼間に英語のマンツーマンレッスンもしているのだけど、その経験が演出に生きているんだよね。「こう伝えたら、相手はこう理解する」といった実感としてのサンプルが、英語のレッスンのおかげでかなり体に染み付いていて。

 それが舞台の演出で、人に自分の中のイメージを伝えなければいけない場面に、すごく役立っている。1日12時間脚本を書いている人ももちろんすごいけれど、脚本を書くのは1日6時間で、残りの6時間はバーで人と話したり英語を教えたりしている人にも、絶対に別の強みや魅力が出てくると思うんだよね。

ーーカテゴリーを横断してインプットとアウトプットをしているということですね、面白い!

 そうだね、一見別のカテゴリーに属することでも、共通して役立つことってたくさんあると思う。例えば社交ダンスと乗馬の感覚って似ているんだよ!どちらも言葉を介さずに、姿勢や体重移動で相手に自分の意思を伝える必要がある、とかね。

 だから社交ダンスの練習をしている間に乗馬も勝手にうまくなっている、ということが起き得ると思ってる。これって結構すごいことで、時間を何倍にも増幅できる可能性を秘めていると思うんだ。

 ただ、何も考えないで別々のことをやってても、ただのバラバラの体験になってしまう。だから何か一つのことをやるときに別のことにも役立てられるんじゃないかという意識を持って過ごすことが俺にとっては大事なんだ。

お金より幸福感を優先しよう

ーー経営者から英会話講師、脚本家や翻訳家まで多様な肩書きを持っている史樹さんですが、どれが本業という意識はあるのでしょうか?

 いや、本業という感覚はないよ。たまたま時間換算すると割合が多い、というものはあるけれど、本当にそれだけ。自分の幸福感とか人生のミッションに合っていれば何でもやるわけだし、あとはその時々の優先順位の問題でしかないから。職業や肩書の区分けも、自分の中では殆どないよ。

ーーお金をより多くもらっているとかは、関係ないということですね。

 関係ないね。そもそも最近ずっと考えていたことなんだけど、みんなお金を稼ぐことに意識が奪われすぎているんじゃないか、と。

 今の俺は自分のやりたいことが、わずかずつでも全部収入につながる状態でしょ。会社員生活を続けていたら、収入は今より多かったんじゃないかと思うんだけど、今の生活の幸福感はもう別次元なの。

 実際、俺が純粋に自分のために遣ってるお金って月に2、3万しかなくて。それでも、毎晩楽しいお客さんたちと飲み会を開きながら学ばせてもらってるようなものだし、自分にとって価値あることばかりやりながら、家族ともちゃんと時間を過ごせてるからものすごく幸せなんだ。

ーー自分にとって価値のあること、好きなことをしてお金を稼げれば、幸せということ?

 うーん、それもちょっと違くて。じゃあみんな好きなことだけやっていれば、社会全体がうまくいくのかというと、そういう訳ではないし。お金と幸福を分けて考えよう、ということかな。

ーーちょっとまだ分からないです!

 自分でも最近ずっと考えているテーマなんだけど、難しいよねこれ(笑)。みんな、稼ぐお金の額から幸福かどうかの判断を下したりするじゃない。「1000万稼げれば幸せ」みたいな。でもそれだと、幸福感が後回しになっている。

 どういう状態が自分にとって幸せなのかを考えることを、いくら稼げるのかより優先するべきだと思う。そうしないと間違った時間の使い方をしてしまう。

ーーあ、分かってきたかも!

 基本的に稼ぐための労働には時間がかかる。だからもしその労働の内容が、一部でも自分のやりたいことや好きなことでないとしたら、お金を稼ぐ行為が自分の幸福を阻害していることになる。

「1000万稼げたー!やったー!」と思っても、「それで今本当に幸せ?」と自分の心の奥底に問いかけて、自信を持って頷けないなら、時間の使い方の配分を見直しても良いんじゃないかな。

 だから順序としては、自分ができるだけ好きなことができて、幸せに過ごすためには、これくらいのお金が必要で、そのためにはこのくらい労働が必要で…という順番で考えるということね。

 多くの人が、年収1000万円稼ぐためにはこういう仕事に就いて、これくらい働かなければいけなくて…という順序で考えているように思うんだけど、それって順番間違ってないか?と思うのです。

関わる人を幸せにしたい

ーーそんな史樹さんですが、バーをやっていて、1番幸せを感じることは何ですか。

 変幻自在に来たことがきっかけで人生が開けたとか、自分のやりたいことや長所に気づけたとか、言ってもらえたら嬉しいな。変幻自在に関わったことで、その人の人生が今までより幸せになったら、それが1番。

ーー最後に今後の野望を教えてください!

 映画を撮りたい(実は私もなんです!)。相互理解のマインドを広めるミッションを追求するにあたり、映画はその場限りではなく残るものだから観てくれる人の桁が違うし、その分広がり方の規模も大きいよね。

 とはいえ、変幻自在にも外国は84ヵ国から(マダガスカルやエチオピアからも!)、累計で何千人もお客さんが来てくれているし、彼らがここで感じたことを少しずつ世界に広めてくれるだけでも大きな意味はあると思う。このバー空間を一つの基地としていろんなことにつなげていけたらいいなと思ってるよ。

略歴:港区芝公園にて「変幻自在」という名のバーを経営。世界各国のお酒だけでなく、美味しいご飯も提供する。計6年間米国に居住し5ヶ国語を操る。昼間は英会話レッスンの講師や通訳・翻訳家を務め、舞台の脚本・演出も手掛ける。元ソニーマンでメキシコでVAIO立ち上げの経験あり。ワインを巡る人生の物語「命のしずく」の著者。

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