何を思い、絵を描くのか。アーティストの頭の中を覗く

「1ヶ月暮らせるお金が入ったので、絵で食っていこうと決めました」

 すました顔でそう話す中元寺隆夢(ちゅうがんじ・たかむ)さん(32)は、キャラクターデザインを手がけるイラストレーター。落ち着いた印象とは裏腹に、高校卒業後は12年間ミュージシャン、30歳でアルバイトを辞めてフリーランスのイラストレーターに転身したツワモノだ。

 大きな志が見え隠れする一方、極端なほどにマイペース。言葉ににじむのはアーティストとしてのプライドと、周りの人を思いやる謙虚さ。相反するかに見える要素をいとも簡単に包み込み、人を魅了する作品を作り続ける。そんな隆夢さんの魅力に迫った。

移ろう表情を捉える

ーーまずは、作品についてお話を聞かせてくだい。私も大好きな作品がたくさんありますが、隆夢さんの絵は憂鬱そうな女の子が多いですよね。

 そうだね、確かに男の子は滅多に描かない…!憂鬱そうな表情の絵が多いのは、中途半端な表情が好きだからかな。例えば、真顔から笑顔になるまでの一瞬とか、泣き出す直前の表情とか。

 そういう時の表情って、1番正直な気がして。女の子を描く理由は、単純にきれいなものを描きたいという気持ちもあるし、女の子の曲線が好きなんだと思う。

 音楽で言ったら、好みのメロディーラインをみんなそれぞれ持っているじゃない。僕の場合は、それが女の子なんだと思う。

ーー隆夢さんの感情は、絵に影響しているんですか?

 というよりも逆に、描いている対象の心の中に入り込みすぎて、僕がしんどくなってしまうことはある。以前「女の子のトラウマ」という題で展覧会を開いたことがあって、知り合いの女性たちに根深くまとわりついているトラウマを、実際に聞いて絵にしていったのね。

 その時はドボンと人の内側に入って絵を描いていたから、結構辛かった。自分でも人に憑依する能力は、長けているんじゃないかと思っている。でも色使いは明るくして、暗い絵にはしないようにしているよ。美しい作品が好きというのもあるし、ダークな部分もあえて陽気に伝えたいな。

ーー絵のモチーフや色、画材は、どうやって決めているんですか?

 実際に描いている時間より、どういう作品にしようか考える時間の方が長くて、その時間にモチーフや画材のイメージは決めているかな。最近はPinterest(ネット上の画像を集めて見られる画像収集サービス)を見てる。「このポーズは自分の描きたいイメージに似ているかも」といった感じで、ヒントをもらっているよ。

 外に散歩に出かけたりもするし。日常生活の全部を横断して刺激を得たい。そのために外の散歩と脳内の散歩、両方している。

スランプに陥ったことはない

ーークリエイターって、作品をゼロから創る過程をひたすら繰り返していく訳じゃないですか。永遠に産みの苦しみを味わう、という感覚はないんですか?

 それよく言われるんだけど、正直ゼロから創っている感覚はないんだ。僕は人に憑依して絵を描くから、その人がいないと描けない。その人が存在している時点で、ゼロから創っている訳ではないかな、と。

ーー人の感情を、自分というフィルターを通して表現しているということでしょうか。では世界に隆夢さんしかいなかったら、絵は描けないということ?

 うん、そういうことだね。作品を生み出し続ける苦しさも、全くないないなあ。スランプに陥ったこともない。いつだって周りに題材はあるわけだし。

ーー(ほんとにサラッとすごいこと言うよな…)

やりたいことしてないと周りに迷惑

ーーアルバイトを辞めて、絵に打ち込み始めた時期がありましたよね。

 そうそう、1年半前くらいかな。絵の収入で1ヶ月くらい暮らせるお金が、まとまって入ったのね。だったら自分のしたい事だけで生きてみようと思って、アルバイトは辞めちゃった。で、30歳にしてフリーのイラストレーターになったわけです。

ーーやりたい事だけで生きたい、という気持ちはずっとあったんですか?

 そうだね。でも自分の明確な意志というよりは、やりたい事をしていないと、周りに迷惑だし誰も幸せにならないよなあと思って。

 アルバイトも楽しかったし真剣にやっていたけど(とあるハンバーガー屋で店長をされていました。お店の壁一面に隆夢さんの絵が描いてあります)、100%やりたい事ではないから、結局は中途半端にしかできていなかった。もしかしたら自分が壁に描いていた絵が嫌いで、店に来たくない人もいたかもしれないし…。

 好きな事は「好きこそ物の上手なれ」の論理で、自然に得意な事になっていくし、どうせならそこで頑張った方が世の中にとっても良い事だなと。

ーー実際にフリーになってみてどうでした?

 あんまり計画立てるのが上手くないから、画材の仕入れ費用とか考えてなくて(笑)、途中で日雇いバイトとかはしてたよ。でも定期のバイトはしないと決めてた。

 人ってはっきり数字で「何円入ってくる」って分かる方に、絶対に流れるから。でもまあ、何とかやってこれて今に至る。ははは🙂

12年音楽ばかり、絵はほったらかし

ーーそんな隆夢さんの思考回路を育んだ幼少時代のことを教えてください。

 家庭はすごく自由だったよ。「学校は行っても行かなくても良い」くらいのスタンスで、小4くらいまでは校門まで行って、「今日は学校の気分じゃないわ」って思ったら帰ってきてた(笑)。

 それでも家で怒られたことはなくて、親の職場に連れて行ってもらえたり。高校は美術のコースに行って、そこできちんとデッサンの基礎を学べたのはすごく良かった。

ーー大学は?

 美大に行こうと思っていたんだけど、浪人は許してもらえなくて。当時バンドも組んでいて「どうせやるならスターになりたい!」って考えた時に、何となく当時は音楽だって思ったの。

 親は「美大に行きたいって言ってたのに音楽なの?」って感じで驚いてたな(笑)。それから12年間音楽ばっかりで、絵はほったらかし!

ーーえ!そうだったんですか?!絵を本格的に始めたきっかけは?

 仕事としてではないけど、もちろん絵は続けていたんだよね。それで絵の方が需要が出てきたことと、これなら上に行けるかもって自分でも手応えを感じられたことが大きい。

 音楽をやっていた1番の収穫は、人とのつながりができたこと。その1つとして、知り合いのマジシャンの美術担当をしたことがあったのね。彼がテレビの企画で使う映像の絵コンテを描かせてもらえたり。自分でも得意だなって思えたし、この分野ならポーンと突き抜けられるかも、という手応えがあった。

 あとは正直、音楽は海外で演奏したりCDを出せたりもしたけど、若い時に一瞬で有名になりたかったから、「長年やってもこんなもんかあ」という気持ちもあった。ちなみに友達は昔から絵に集中した方が良いって言ってくれていたらしいんだけど、全然人の話を聞いていなかったみたい(笑)。

ーー「ポーンと突き抜けたい」という思いも強かったんですか?

 うん、何かしらで大成したいという気持ちは、ずっと自然に持っていたよ。きっかけは変なんだけど(大歓迎です!)、小学生の時に学校に行かずに駅でぼーっと人の流れを見ていたことがあって。

 そこでみんなが前を通り過ぎていくんだけど、「何で誰も話しかけてくれないんだろう?」って疑問に思った。単純に友達になりたい!って思ったの。そのためには、みんなに知ってもらえる存在にならないといけないなあと。

頭から煙が出っ放しの会社員生活

ーー1年前からベイシカで働き始めましたよね。会社員になることへの抵抗はなかったんですか?

 ベイシカ(キャラクターデザインやグッズ制作の会社。以下写真の注釈に概要を記載しました)は、基本は代表と僕の2人でやっている会社なんだけど、きっかけは代表に一緒にやらないかと誘ってもらったこと。

 最初は正直、就職することには抵抗があった。やりたくない仕事もあるだろうし、大成するという目標があるのに、そこに到達するのに時間がかかるんじゃないかと。

 ただキャラクター開発をビジネスにしたいっていう代表のビジョンには共感したし、諸々の事情で自分が正社員になった方が、会社にとって状況が良くなるんだなと感じて、結局は働き始めたよ。

ーー実際働いてみてどうですか?

 最初は頭から煙が出っぱなしだった!ずっと紙とペンで描くスタイルだったから、Photoshopの使い方もわからない。しかも自分が描きたいものを描くだけじゃなくて、見る人や依頼者の視点に立ってデザインしなければいけないのが初めての経験で、毎日すごく辛い筋トレしてるみたいな気持ちで過ごしてた。

 でも会社の仕事が自分の作品にも良い風に影響しているし、仕事と個人の制作は分けて考えてないよ。あと僕の名前だけで営業メールしても全然返信こないけど、会社の名前が入っていればぐっと返信率上がるし!今となっては、会社の肩書きはしっかり活用していきたいなと思っています。

ーー最近の一押しの仕事は?

 TVアニメ「その時、カノジョは。」とコラボした#T(ハッシュティー)がおすすめ!フラッシュをたいて撮影すると、メッセージが浮かび上がる仕組みのTシャツ。あとは絵本も近く発表予定なので、お楽しみに!

ーー最後にこれからの野望を教えてください。

 直近では#Tを流行らせたり、自分で作ったキャラクターで成功したりしたいな。長期的に考えると、やっぱり地球が平和がいいなって。結局世の中の争いって、意見を発信することと、それをしっかり聴くバランスが、うまく取れていない事で起きていると思うんだよね。

 もしかしたら、誰か1人に話を聴いてもらえるだけで救われる人もいるかもしれないし、自分もそういう1人になっていきたい。絵を通してそんな役割も果たしていけたらいいな。

略歴:イラストレーター。東京都立片倉高等学校造形美術コース卒業。かわいくて憂鬱そうな女の子のイラストにファン多数。似顔絵入りオリジナルTシャツ制作の依頼は随時受付中。現在はベイシカでキャラクターデザインやグッズ制作を行う。実の父親と名づけ親と3人で組んでいる異色バンド「The Buddy Time」のギターボーカル。鷲鼻。

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ベイシカ:
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