ダンスアーティスト 鈴木彩華

血が全身を巡っているのが分かる。私の体ってこんな動きもできるんだな、とちょっと嬉しくなる。そんな体験をさせてくれたのは、ダンスアーティストの鈴木彩華さん(26)が開く、コミュニティダンスのワークショップだ。当日のプログラムは、彩華さんのオリジナル。リラックスした雰囲気の中で、初心者・経験者関係なくのびのびと体を動かせる。彩華さんが体を通して伝えたいものは何なのか。じっくりと話を聞いた。

言葉には嘘が多い

新宿中心街の喧騒から少し離れた路地を歩いていると、小さなスタジオが見えてくる。ここで開催されるのが、彩華さんのコミュニティダンスのワークショップだ。ベリーダンスやヒップホップの経験がある人から、私のような全くの未経験者までの6人が今日のメンバー。

自己紹介でお互いのことを話すと、少しづつ緊張がほぐれてくる。コミュニティダンスとは、性別、年齢、障害の有無にかかわらず、どんな人にも開かれたダンス。そもそも彩華さんはコミュニティダンスを通して何を伝えたいのだろう。

鈴木彩華:ダンスアーティスト。中学校からダンスを始める。大学時代にインドに1年留学し、現地の服飾学校に通う。インドでダンスを生業にする決意をし、卒業後にイギリスの芸術学校でダンスを専攻。帰国後、コミュニティダンスのワークショップの開催や振付師として活動しながら、自分の作品も発表し続けている。

「言葉って嘘が多いと思う。一方で、体を使った表現だと、本能や感じたことがそのまま伝わりやすいんだよね。

ダンスって正直、生きていくのに必要なスキルではない。でもだからこそ踊っている時は、日常生活で気づけないことを発見できると感じていて。

『自分の体ってこういう風に動くんだ』とか『自分はこう感じたけど、他の人はこう表現するんだ』とか。ワークショップは、自分自身のことも他の参加者のことも、『すごいじゃん!』って認め合えるような場にしたい。

コミュニティダンスは、誰でも自分を表現できるダンス。ワークショップをやっている一番の目的は、一人ひとりがユニークで大切な存在だということを、ダンスを通して引き出すこと。だから絶対に相手を否定しないで、自由に表現してもらうことを、常に心がけているよ」

まずは彩華さんの動きを真似てみる。でも案の定、なかなか上手くはいかない。「目線は指先に」「トラと対峙していると思って堂々と」。言われた通りやってみると、ぎこちなかった動きが、だんだんとダンスっぽくなってきた。

一通り振り付けを覚えると、次は「ヒュルルル」「ドスン」といった擬音語から連想して、ダンスを創るアクティビティ。同じ音でも、人によって表現の仕方が全く違う。足や首もあるのに、腕ばかりを動かしてしまい、自分の体をいかに知らないかを思い知る。最後には、汗が背中を伝うほど、体が温まっていた。

一生応援団長をやっていたい

彩華さんの人生は意外にも、ダンス一色というわけではない。木の枝が自由に伸びていくように、心が動くままに、自分の道を歩んできた。

そんな彩華さんの経歴を、簡単に説明しよう。ダンスのルーツは盆踊り。中高ではダンス部や応援団の活動に勤しむが、大学時代にはフェアトレードファッションに興味を持ち、インドの服飾学校へ留学。

しかし改めてダンスを生業にすることを決意、大学卒業後にイギリスの芸術学校で本格的にダンスを学ぶ。帰国した現在は長野県須坂市と東京での2拠点生活を送りながら、パフォーマンス出演やコミュニティダンスのワークショップの主催をしたり、振付師として活動したりしている。

「踊り始めは盆踊り。町内会のお祭りで、近所のおばさんから引かれるくらい、楽しそうに踊っていたらしくて(笑)。中学と高校ではダンス部に入っていたけれど、今思えば入った理由はテニス部の先輩が怖かったからだなあ。

あと、部活と並行してやっていた応援団が、とにかく大好きで。毎年体育祭の時に、ダンスを交えた学年対抗の応援合戦をするのね。誰でも入れるから、茶道部の子もオタクっぽい子も帰宅部の子も、全部ごちゃ混ぜ。

いろんな人がいる集団の中で、ダンスのリーダーになるのがすごく楽しかった。結局今も、したいことはみんなの応援団長であることなのかも(笑)」

高校のダンス部の振付のために、アラビア風のダンスを調べているうちに、ボリウッドに行き着いた。そして、華やかでキラキラしたインドダンスの世界の虜に。

「インドの衣装とかアートが好きみたいで。今もスマホの待受はヒンドゥー教の神様(笑)。あとは、高校の授業でマザーテレサの映画を見る機会があって。当たり前なんだけど、華やかなインド映画がインドの全てじゃないんだなって気づけた。

インドへのこだわりも捨てられなかったし、国際協力に興味を持ち始めていたこともあって、大学では海外でのボランティアサークルに入ったの。インドでは貧しい暮らしをする人と接することが多かったんだけど、お金の話をする時はすごく悲しそうなのに、みんなで踊っている時はとても楽しそうで。

ダンスは、今ある苦しみを少しでも和らげてくれるのかなって感じた。この時の感覚は、ダンスで生きて行こうと決めた原体験の一つかも」

そんな経験からインドにどっぷり浸かり、大学在学中にインドへ1年間留学。だが、そこでの日々は「とにかく暇」だったという。

「当時はダンスよりもファッションへの興味があって、インドの服飾関係の学校に通っていたのね。でも学校がゆるくて、カルチャースクールに通っているみたいなもんなのよ(笑)。週3回、足踏み式のミシンを何時間かバッタンバッタン使って服を縫って、『さて、今日は何をして過ごそうか』という感じ」

しかし時間があったおかげで、改めて自分と向き合う時間をつくれた。インドでの日々は、毎朝アパートの屋上にヨガマットを持ち込み、筋トレと柔軟をするところから始まる。ボリウッドダンスを習ったり、ダンスの自主練をしたりと、改めてダンスに触れる時間も多くなっていく。

「インドで自主練を続けるうちに、やっぱり私はダンスが好きなんだなって。そしていつの間にか『ダンスって人生に必要だ』と思う瞬間が積み重なって、花粉症を発症するみたいに一定量に達しちゃったんだよね。

さらにインドで出会ったプロダンサーに、『本気でやるなら、きちんと学校で学びなさい』とアドバイスを受けて。コミュニティダンスの本場、イギリスででダンスを学ぼうと決めた」

ダンスは見た目の美しさだけじゃない

大学卒業後、渡英。ダンス専攻とは、どんな勉強をするのだろう?と聞いてみると、筋肉の形や栄養、睡眠など、ダンスの枠を超えた体やライフスタイルについて勉強するDancing bodyという講義や、踊りの幅を広げるために、ダンスの動きや振り付けを学ぶTechnicの授業もあるという。

「授業の他に、健常者と障害を持った人が、一緒にダンスするワークショップにも参加していて。そんな経験から、ダンサーでなくても誰でも踊れる、コミュニティダンスに熱中していったのかな。

『コミュニティダンスの論じ方』が、いわゆる最終的な論文の内容だった。正直、コミュニティダンスはクオリティが低いと見られる風潮もあって。プロのダンサーではなくて、一般人が踊る前提だからね。

でも私は、ダンスで重要なのは、見た目の美しさだけではないと思う。コミュニティダンスは、人との違いを受け入れたり、自分自身や相手をより深く理解できる、教育的観点がある。そんな内容を書いたよ」

イギリスから日本に戻ると早速、精力的に活動を始める。SLOW LABEL主催の、国籍や障害の有無を超えたパフォーマンスへの出演を果たしたほか、イギリス留学時代に創った作品を発展させて、神楽坂のスタジオで発表。

さらにアーティストの邊薫(なべ・かおる)さんの個展で、絵のイメージに合わせて踊りを創作、披露したり、アイドルの振り付けを創作したりするなど、活動はワークショップにとどまらない。そして「自然の近くにいたい」と昨年の秋から、長野の須坂市に移住し、東京との2拠点生活を始めた。

邊薫さんの作品の前でダンスを披露する彩華さん

創作で行き詰まったことはない

常に何か新しいことを創造する仕事。振付が思い浮かばなかったり、行き詰まったりすることはないのだろうか。

「創作で行き詰まったことはない。むしろアイディアが出すぎて、選ぶ作業をしていることが多いかな。

作品を創るプロセスは、連想ゲームと似ていると思う。例えば絵を見て「生命力」というテーマを感じたら、そこからさらに「大地」といった言葉を連想して、そのイメージに合った動きをつけて行く。自分が感じたことや、聞こえてきた音に素直になって身を委ねれば、いくらでも踊りは創れると思う。

だからと言って、自分を表現したいというわけではないんだよね。踊りはあくまでも、人生を豊かにするための手段。かと言って、自分の作品や表現がない人に『みんなの踊りを見せて!』と言われても信頼できないし、ついて行きづらいよね。だから、自分の作品を創っている」

ダンスをしている時は、自己紹介をしている気分だという。ありのままの自分や、感じたことが素直に出ているから。一方で、思い通りに踊れない時の葛藤はないのだろうか。

「イメージ通りに踊れない時は、辛い。画家なら気に入らなかったら、絵を破くこともできるけど、ダンスは自分自身が媒体だから。自分の体は壊せない。ダンスに自分のあまり好きでない部分が出て、落ち込むこともあるよ。『やっぱり私暗いな〜』みたいな(笑)

ダンサーというよりは身体表現者

人を巻き込む力と独自の感性で、道を切り開いてきた彩華さん。今後は、コミュニティーダンスの活動を広げていきたいという。

「ワークショップは、今は単発でしか開催できていないんだけど、みんなで作品を創れるところまで、少し長期的にやってみたいな。正直、参加者を思うように集められないのも結構悩んでいて。自分の創造性を磨くだけじゃなくて、対外的なアピールや、参加してくれる人たちのニーズを汲み取ることも、きちんとやっていかなきゃなっていうのは、現実的に考え始めている。

最近はプラスチックゴミなんかの環境のテーマにも関心があって、海をテーマにした作品を創りたいとも思っているよ。体を動かすだけじゃなくて、衣装もみんなで考えたり、空間全体を作品として表現したい。

自分や他者の素晴らしさに気づくいたり、何かを表現する手段は、ダンスに限らなくて良いと思う。私はやっぱりダンサーというよりは、表現者。ダンスに限らず、自分ができることはこれからも何でもやってきたいな」