イントロ王者に直撃。なぜ0.3秒で曲を当てられるのか?

0.3秒。それはギターの弦が擦れる音や咳払い、街の雑踏が切り取られた、ほんの一瞬だ。藤田太郎さん(39)は0.3秒間聴けば、5,000曲の曲名を言い当てられるという、イントロクイズ日本一の人物だ。

生きていくのには一見全く必要のないスキルだが、イントロとクイズで生計を立ててしまっている藤田さん。好きなことに正直に、音楽とクイズを軸に人生を選ぶ藤田さんの生き方に迫る。

0.3秒聴けば5,000曲を答えられる

ーーますば藤田さんは日々、どんなことをしているのですか?

まずは、普通に会社員です(笑)。セブンデイズウォーという編集プロダクションの会社に務めています。そこにクイズ部門というちょっと尖った部署があり、クイズ専門誌の問題の作成や、いろんなクイズが楽しめる専門店QUIZ ROOM SODALITE(クイズルーム ソーダライト)の運営などをしています。

ーー今日はそのクイズルームで取材をさせていただいていますが、ここはどんな場所なんですか?

イントロクイズ含む、クイズ全般を楽しんでもらえるイベントを開催している場所です。早押しボタンを好きなだけ押せますし、クイズの特訓に使いたい人にはもってこいです。

イベントはレベルごとに分けているので、ビギナーでもベテランでも楽しんでもらえるようにしています。今日は90年代の曲限定でイントロクイズやりましょう、などテーマも様々。僕もちょくちょく出題しています!

藤田さんの勝負服、レジェンドTシャツ。

ーーし、知らない世界だ!そもそもイントロマエストロとして、どんな活動をしているんですか?

イントロクイズで出題をしたり、ラジオやトークイベントでイントロについて語らせてもらったりしています。あとは音楽のストリーミングサービスに、イントロが特徴的な曲のプレイリストを提供することもあります。「ブレスイントロ」といって、息を吸い込む音から始まる曲を集めたり(笑)。

実はテレビ番組「マツコの知らない世界」「ひみつのアラシちゃん」などに出演させてもらったこともあるんですよ。イントロマエストロの語源としては「マツコの知らない世界」で、素晴らしい編曲者を紹介したときに、彼らに敬意を込めて「イントロマエストロ」と呼んだんです。でもいつの間にか「イントロクイズの出題ができる人」がイントロマエストロと呼ばれるようになり、今では僕も自称するようになったというわけなんです(笑)。

イントロはおばあちゃんの影響?

ーー藤田さんって、何秒聴けば曲を当てられるんですか…?

0.3秒聴いて答えられるのは、5,000曲。1秒聴けば7,000曲かな。脳内に蓄積されている曲数は3万曲くらいだと思います。

ーーえ、どういうこと…?どうやってそんなスキルを身につけたのですか?

始まりは、中学2年生の頃です。高校卒業まで、テレビ・ラジオの音楽ランキング番組のBEST10をひたすらノートに書き写す、ということをやっていたんです。ラジオ番組は週12個、欠かさず聴いていました。なぜこんなことをやり始めたかというと、僕はおばあちゃん子なのですが、おばあちゃんが今時の音楽が好きなミーハーな人だったんです。そんなおばあちゃんから、音楽のランキングを小学生の頃から見せられていたのがきっかけですね。

学生時代はバスケ部が結構忙しくてリアルタイムでは聴けず、カセットテープに番組を録音。トークの部分は早送りして、ランキングとイントロだけ聴いてひたすらメモ..というのをを繰り返していました。そうしたらそれがイントロクイズの鍛錬になっていました。

ーー知らないうちにイントロが刷り込まれていったのですね…。本格的に始めたのは?

大学のサークルですね。もともとイントロクイズというより、普通のクイズが好きだったんです。1980年代に、「アメリカ横断ウルトラクイズ」という、クイズを解きながらアメリカを横断する、という視聴者参加型の番組があったのですが、夢中で見ていました。僕は1度トライしたこともあったんですが、勝ち進むことはできず…(笑)。そんなこともあって、大学ではクイズ研究会に入りました。

クイズルーム。早押しボタンを思う存分押せます!

ーーそうか、音楽好きなだけでなく、クイズ好きでもあるんですね。

そうなんです。しかもイントロクイズって、クイズ好き界隈では結構マイナーな存在なんですよ。僕はクイズ業界の小笠原諸島と呼んでいますが(小笠原諸島のみなさん、すみません笑)。でも幸い、僕が入ったサークルはイントロクイズ好きが多かったんです。

入学してすぐ、新入生歓迎会でイントロクイズをやったんですが…。そこで発揮してしまいました、狂ったようにランキングをメモしていた成果を(笑)。SMAPの「夜空ノムコウ」という曲は街の雑踏から始まるんですが、そのイントロですかさず回答し、「え?」という空気になったのを今でもよく覚えています…。

ーー早くも頭角を現してしまったんですね(笑)。

クイズ研究会のくせに体育会系なサークルで、先輩の家に集まって、各自持ち寄った曲のイントロクイズをやり続けるなんていう会もありましたね。20時間ひたすらイントロです(笑)。あとは新宿に、リクエストした曲が歌われている番組の映像を流してくれる歌謡曲スナックがあって。そこが衝撃的に楽しかった。初めて行った時、楽しすぎてハイボールを25杯飲んだのを覚えています(笑)。

大会前は早押しの特訓も

サークルの7つ上の先輩が全国大会で優勝経験があった縁もあり、僕も大会を目指すようになりました。でも優勝するまでは10年かかりました。最初に大会に出たのは大学1年生の時で、その時は4位。その後は、準優勝3回、3位4回などくすぶっていて(笑)。もう諦めようかな…と思って出場した2008年、悲願の優勝を果たしました!

ーーめでたい!大会に向けてはどんなトレーニングをするんですか?

音楽系の雑誌は常にチェックして、新曲はくまなくチェック。発売した日にCDをレンタルしていました。あとはサークルの先輩のお勧めは全部メモして、レンタル。それで新曲と古い曲を同時に知れるんです。多分CDのレンタル代だけで、1,000万円はかかっていると思いますよ(笑)。そのほかは、イントロだけのプレイリストを作って、ひたすら特訓です。

ーー早押しボタンを押す練習もするんですか?

はい、します(笑)。早押しは反射神経が大事じゃないですか。だからやっていたのは、お風呂の中で精神を集中させて、ちょっとでも音が聴こえたら、早押しの素振りをする。押し負けるのは、悔しいので!

ーー「マツコの知らない世界」では、どんなことをしたのですか?

自分がイントロが良いと思う曲や、素晴らしい編曲者を紹介させてらもらいました。それまではイントロクイズの回答側しかやったことがなかったのですが、それがきっかけで曲の紹介や出題側もできるんだと気づけました。あと実はもう一つ、マツコさんの番組が転機になっていることがあって。マツコさんがその場で選んだ曲のイントロを0.1秒間聴いて何の曲か当てる、という企画をしたんですよ。めちゃくちゃ緊張しながら、2曲は結構難しかったのに正解できたんです。そこでホッとしたら3曲目のすごい簡単な問題で間違えてしまって(笑)。

それが放送されて、「コイツ実は大したことないんじゃない?」「俺の方が強いぜ」みたいな声もネットで上がっていたんです。僕はそういうのを真に受けるタイプなので、「だったらいつでも対戦相手になるから、どこでも呼んでくれ!」とアピールを始めました。それが、のちにイントロクイズナイトのイベントを開くことに繋がって行くのです。

こんな曲あるんだ!という発見を

ーーイントロクイズの出題をするときは、どんなことに気をつけて選曲しているのですか?

一曲でも多く、新しい曲を知ってほしいのというのが最大の願いです。こんな良い曲あったんだ、家でも聴いてみよう!と。もちろん新しい曲を知ることで、クイズも強くなりますしね。あと個人的にこだわっているのが、会話を生めるような選曲。例えば前回のイントロクイズナイトは1月だったので、冬にまつわる曲や紅白で盛り上がった曲を盛り込みました。

ーー先日のイントロクイズナイトの1曲目の出題は、QUEENのボヘミアン・ラプソディでしたね。

はい、その時話題になっている曲も入れますよ。後は今回は、タイトルで言葉が3回連続している曲を続けて出題したりもしました。「シング・シング・シング」の次は「たらこ・たらこ・たらこ」で、みんなが「あれ?」と思ったら次は「YAH YAH YAH」(笑)。そして多分誰も気づいていなかったけど、そのあとの曲は、サビで3回単語が連続する曲を選んでいたんですよ(笑)。モーニング娘。の「スマイル、スマイル、スマイル〜」とかね。

会場で「QUEENの映画見に行きました?」って会話が始まるのも嬉しいし、「次も3回連続のタイトルが来るのか?!」とか身構えるのも楽しいかなと。イントロクイズナイトは前回で6回目でしたが、曲はほとんど重複はしていないんですよ。

イントロクイズナイトVol.6で出題兼進行をする藤田さん。

好きな仕事に漂着

ーー現職の前は、どんな仕事をしていたのでしょうか?

新卒で入ったのは音楽配信の会社で、今となっては死語になってしまった着メロを世に出した会社にいたんです。曲を知っている人も欲しい、と雇ってもらえたのでまさに「イントロ採用」です(笑)。iモード全盛期に働いていたのは、貴重な経験でしたね。

その後はキャスティング会社。「イベントやりたい」「プロモーションしたい」という人などに、タレントさんやミュージシャンを紹介する仕事です。でも音楽に全然関係のない部署に配属されてしまい、1年たたずに辞めてしまいました。

ーーそれでも音楽や芸能関係にはずっと携わっているんですね。

そうですね、でもただミーハーなだけかもしれない(笑)。そして前職では、歌詞を表示する音楽プレーヤーアプリの企画などをやっていました。その会社でした変わった仕事といえば、「J-POP降水量ランキング」といって、歌詞に「雨」という単語が何回出てくるかを調べて、まとめてリリースを出すなんてこともしていました(笑)。

ただ音楽やクイズというより、システム開発の案件などが多く、結局今のセブンデイズウォー に落ち着いているという流れになります。思えば30代後半のこの3年で、4回も仕事を変えてしまいました(笑)。今は完全に自分の好きなことを仕事にできてしまったので、長年かけて漂着した感じはありますね。

ーー最後に今後の野望を教えてください!

年末に勝手にイントロ大賞(最下部にリンクあり)というのを作ったんですが、それをもっとオフィシャルにやりたいです。本屋大賞のようなイメージで。イントロが良い曲って、良い曲である可能性が極めて高いんです。イントロという切り口で、知らなかった曲を聴いたり、音楽を聴く頻度が上がったり、という人が増えたら、すごく嬉しいですね。

略歴:イントロクイズを出題したり、メディア等でイントロについて熱く語るイントロマエストロ。イントロクイズの全国大会で優勝経験がある。「マツコの知らない世界」、「ひみつのアラシちゃん」といった20を超えるテレビ、ラジオに出演。本格的な早押し機を使ったイントロクイズ企画の司会や総合プロデュ―スを手掛ける。趣味は和太鼓と、家族とディズニーランドに行くこと。

勝手にイントロ大賞

Spotifyで配信されている2018年発売の曲から、藤田さんがイントロを聴いただけで「好きだ!」と感じた10曲をまとめたリストです。

「ちえのわ feat.峯田和伸」 東京スカパラダイスオーケストラ
「ノーダウト」Official髭男dism
「さよならエレジー」菅田将暉
「Disco Yes」 トム・ミッシュ
「ALRIGHT」竹内アンナ
「颯爽と走るトネガワ君」ゲスの極み乙女。
「POP TEAM EPIC」上坂すみれ
「いきなりパンチライン」SKE48
「何様 feat. ぼくのりりっくのぼうよみ」SKY-HI
「DDU-DU DDU-DU」BLACKPINK